経営者に必須の法務・財務 職務発明訴訟と経営者の考え方
発明の対価を604億円と認める判決が30日、東京地裁で言い渡された。ただ、原告の請求額が200億円であったので、請求で認められたのは200億円である。
原告は高裁で請求金額を拡大してくるから、高裁判決が東京地裁と同じ考え方になれば、原告は600億円を超える金額の発明対価が認められる可能性がある。
従来の日本的経営では従業員の知には、労務の対価以上のものは不要であると考えてきた。
日本社会全体も、他人の知はただという感覚であることが多かった。図書館で多数の人が本を読んでも、印税は図書館がその図書を購入したときの印税だけでよいと考えてきた。
そのような考え方が、これからの知価社会では通用しないことを示すのが、今回の東京地裁の判決である。
企業社会では、日本的経営の見直しが課題とされているから、従来のように終身雇用がなく、年金給付が万全でない中では、有能な従業員は忠誠心を行動基準にはしない。
特に有能な従業員は、会社にそれなりの利益を与えたならば、その利益に応じた対価を要求してくる時代に入ったのは明らかである。
このような新しい時代には、その時代の要請に適応しなければならない。
ところが、600億円の対価を従業員発明に払わないで済ますように考える考え方がある。特許法の改正で従業員との合理的契約があれば、あとで訴訟を起こしにくいようにしようとするのである。
これにも、一応の合理性がある。しかし、良く考えるとおかしい。少ない対価しか払わないで、素晴らしい特許発明を会社のものにしようとすることは出来るのかが疑問だからである。
少しの対価で済ませようとする会社と、いくらでも価値に見合った対価を払おうという会社があれば、腕に覚えのある従業員ほど、後者の会社を選ぶであろう。
後者の会社はそれで損をすることはない。なぜなら、従業員に支払う対価が大きければ大きいほど、会社の獲得する利益はとてつもなく大きくなるからである。
経営者は将来を良く考えて、職務発明についての対応を考えるべきである。それが、知価社会に適応する経営者の役割につながるからである。
(文責 鳥飼重和)-2004.2.2
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