会社法QA 第1回 内部統制システム

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 内部統制システム

【解説】
1 会社法はすべての大会社に内部統制システムの構築方針の決定を義務付けている
 資本金5億円以上の会社、または負債が200億円以上の会社を大会社といいます(会社法2条6号)。大会社のような大規模な会社の活動は、社会に大きな影響を与えますから、適正なガバナンスの確保が特に重要です。ところが、大規模な会社では、各取締役が会社のすべての活動を逐一把握することは現実的には不可能であるため、組織として適正なガバナンスを確保できる体制を整えることが必要になります。
 そこで、会社法では、すべての大会社に対し、取締役の職務の執行が法令や定款に適合するなど、会社の業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の構築の基本方針を決定することを明文で義務付けています(会社法362条5項)。

2 内部統制システムの内容は
 会社法施行規則100条では、[1]取締役の職務執行に係る情報の保存管理体制、[2]損失の危険の管理体制、[3]取締役の職務執行が効率的に行われることを確保する体制、[4]使用人の職務執行が法令定款に適合することを確保する体制、[5]株式会社、その親会社および子会社からなる企業集団における業務の適正を確保する体制、を整備するものとし、監査役設置会社にあっては、さらに、[6]監査役の職務を補助すべき使用人の体制、[7]その使用人の取締役からの独立性、[8]取締役および使用人の監査役への報告体制、[9]監査役の監査が実効的に行われることを確保する体制、も整備する必要があるとしています。

3 いつまでに決定すればよいか
 大会社の取締役会が、内部統制システムの構築の基本方針を決定するタイムリミットは、新会社法の施行日以後最初に開催される取締役会の終結の時までです(経過措置を定める政令14条)。一朝一夕に内部統制システムの構築の基本方針を決定できるはずがありませんから、大会社では、新会社法施行前から検討を開始する必要があります。

【質問】
 当社は、精密機械の製造会社です。約1,000名の社員がおり、3つの事業部に分かれて執務しています。また、当社の製品を販売するため、当社100%出資による子会社も有しています。当社の資本金は3億円であり、負債額は約100億円です。当社の場合、
[1] 大会社ではないので、内部統制システム構築義務はないと考えてよいですか
[2] 子会社が不祥事を起こしたとしても、親会社とは法人格が異なる以上、親会社の取締役が責任を負うことはないと考えてよいですか

【選択肢】
[1] 内部統制システム構築義務もないし、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うこともない。
[2] 内部統制システム構築義務はないが、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うことはある。
[3] 内部統制システム構築義務もあるし、親会社の取締役が子会社の不祥事の責任を負うこともある。
【正解】 [3]

【解説】
1 「大会社」でなければ内部統制システム構築義務はないのか?
 確かに、会社法362条5項が明文で内部統制システムの構築を義務づけているのは、「大会社」である取締役会設置会社です。
 大会社は、資本金5億円以上の会社、または負債が200億円以上の会社ですから(会社法2条6号)、【質問】の会社は「大会社」には該当しません。そのため、会社法362条5項が適用されることはなく、内部統制システム構築義務はないようにみえます。
 しかし、委員会設置会社の場合には、大会社でなくても、明文で取締役会に内部統制システムの構築を義務付けており(会社法416条2項)、会社法が、「大会社でなければ内部統制システム構築義務はない」と単純に考えているわけでないことは明らかです。

2 取締役に内部統制システム構築義務が課せられる理由
  内部統制システムは、会社法が立法される以前から、大規模会社における取締役の善管注意義務の内容として、その構築の必要性が説かれているものです。大和銀行事件判決(大阪地判平成12年9月20日判例時報1721号3頁、判例タイムズ1047号86頁)において採用され、取締役に莫大な額の損害賠償義務を認めたことで大きな話題となりました。
「大規模会社」とは、明確な定義があるわけではありませんが、取締役の善管注意義務との関係でいえば、「取締役が1人1人の従業員の活動を監督できない会社」と言ってよいでしょう。
 たとえば、企業不祥事が発生した場合、直接の原因を作った従業員がいるはずですが、「取締役が末端の従業員の活動などいちいち見ていられないから、取締役には責任がない」と言えないことは誰の目にも明らかです。この場合の取締役の責任とは、善管注意義務違反を意味します。「取締役が末端の従業員の活動などいちいち見ていられないのであれば、いちいち見ていなくても法令・定款に適合した活動ができるような体制(内部統制システム)を構築すべきであり、それが取締役の善管注意義務の内容だ。」という論理です。

3 【質問】の会社の場合
 【質問】の会社は、資本金は3億円であり、負債額は約100億円にとどまりますが、約1,000名の社員がおり、3つの事業部に分かれて執務しているわけですから、取締役が1人1人の従業員の活動を監督できるはずがありません。「大会社」でないとしても「大規模会社」であることは確実です。
 したがって、取締役には善管注意義務の内容として、内部統制システム構築義務が課せられていると考えられます。

4 親会社の取締役には子会社の不祥事についての責任はないのか?
 確かに、親会社と子会社は法人格が異なりますし、それぞれの取締役が異なることも多いでしょう。
 しかし、親会社と子会社はグループとして活動するのが通常です。親会社内部で内部統制システムを構築しても、子会社が法令・定款に適合しない活動をすることを許したのでは、グループとして業務の適正を確保できたとはいえません。しかも、子会社は親会社にその経営を支配されています(会社法2条3号)。
 そのため、会社法施行規則100条1項5号は、内部統制システムの内容の1つとして、株式会社、その親会社および子会社からなる企業集団における業務の適正を確保する体制を整備することを明記しています。
 つまり、会計と同様、内部統制システムも連結ベースで構築する必要があります。
 したがって、内部統制システムに不備があり、そのために子会社が不祥事を起こしたときは、親会社の取締役が責任を負うこともあり得ます。

 

※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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