会社法QA 第3回 株式の譲渡制限
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 株式の譲渡制限
【解説】
1 特定の株式に譲渡制限を付けることが可能に!
株式の譲渡制限は好ましくない者が会社へ参加することを防止する点で重要な役割を果たしています。しかし現行法において、株式に譲渡制限を付す場合には全ての株式に譲渡制限が付されるため、例えば上場企業が譲渡制限株式を発行することは出来ませんでした。現在注目を浴びている黄金株も、譲渡制限を付すことができないため、好ましくない第三者に譲渡されてしまうリスクを孕んでおり、一部の国策企業を除いて現実に利用されることはありませんでした。しかし、会社法では、譲渡制限を株式が持つ一つの性質として捉えたため(会社法107条1項1号)、種類株式として特定の株式についてだけ譲渡制限を付けることができるようになりました(会社法108条1項4号)。これによって、黄金株が好ましくない者に譲渡されるリスクが解消できるため、いよいよ現実に利用されるか否かが注目されているのです。
2 制限する譲渡の範囲や譲渡承認機関を任意に設定することが可能に!
株式の譲渡制限に関しては、定款の定めによって、特定の株式譲渡については承認を不要とすることが出来るようになりました(会社法107条2項1号ロ)。例えば、株主間の譲渡などについて承認を不要とすることが可能です。また、現行法では、取締役会だけが譲渡承認機関でしたが、会社法では、定款によって任意に譲渡承認機関を変更することが出来ることになっています(会社法139条但書)。想定される典型的な利用例は代表取締役を譲渡承認機関にすることですが、代表取締役だけでなく執行役などを譲渡承認機関とすることもできます。
3 株式が好ましくない者に承継(相続等)されることも防止可能に!
現行法の譲渡制限は株式の譲渡を制限することはできましたが、相続や合併などによって株式が第三者に承継されることを防ぐことは出来ませんでした。しかし、創業者の相続などによって株式が分散することによって、反社会勢力などが会社に入ることも稀ではなく、会社紛争の要因となることもありました。会社法では、譲渡制限株式が相続される場合には、定款に記載をすれば、会社が相続人に対して当該株式の売渡請求をすることができるようにし(会社法174条)、相続によって招かれざる客が侵入することを防止しています。
【設問】
以下の3つの設例のうち新会社法のもとでも採用できないものが1つありますがそれはどれでしょう?
【選択肢】
[1] 非上場企業(従来株式に譲渡制限を付していた会社、以下も同様)が、株式が相続された場合には総務部長が当該株式の相続人への承継を認めるか否かを決定すること。
[2] 非上場企業が、従業員の間では自由に譲渡できるが、従業員以外の者に譲渡する場合には代表取締役の承諾を必要とする種類株式を発行すること。
[3] 非上場企業が、譲渡制限のない優先株式で資金調達を行うこと。
【正解】 [1]
【解説】
1 譲渡制限株式の売渡請求
旧商法における株式の譲渡制限は(旧商法204条1項但書)、株式の「譲渡」を制限するものであり、株主の相続や会社の合併などがあった場合のように当該株式が一般的に「承継」される場合を制限の対象とするものではありませんでした。そのため株式に譲渡制限を付している会社であっても、多くの株式を保有する創業者に相続などが起こると、それを原因として好まれざる者が株主となり、その結果、会社内に紛争が発生するという事案が少なからず見受けられていました。
会社法では、相続や合併などを原因として一般的な承継が行われた場合には、会社に一般承継人に対する売渡請求権を付与することによってかかる不都合を是正し(会社法174条)、一般承継人に対しては、適正価格による売渡しの機会を付与することによって当該株式の承継者の利益に配慮したのです(会社法175条)。
会社は、一般承継があったことを知った日から1年以内に株主総会において[1]売渡請求を行う株式の数、[2][1]の株式を所有する物の氏名または名称につき、決議をとった上で(会社法175条)、当該株式の所有者に対して売渡しを請求することができます(会社法176条)。
これに対して、売渡請求を受けた者は、会社との間で売渡価格の協議を行うことや、裁判所に対して売渡価格決定の申立を行うができます(会社法177条)。
以上のように、会社法では売渡請求を認めることによって、相続などの一般承継によって譲渡制限株式が拡散することを防いでいるわけですが、これは譲渡制限株式についての譲渡承認とは異なり、会社の側が当該承継を「承認」するという性質のものではなく、単に売渡の請求ができるに過ぎません。また、この売渡請求は会社にとっては自己株式を取得することになりますから、その内容は株主総会の決議によって決定しなければならならず、役員が決定できる性質のものでもありません。
したがって、[1]が新会社法の下でも取りえないということになります。
2 譲渡制限株式の種類株式としての性質
旧商法における株式の譲渡制限の制度においては、譲渡制限という性質は株式の内容ではなく、仮に譲渡制限を付ける場合には全ての株式に譲渡制限を付さなければなりませんでした(旧商法204条1項)。したがって、上場企業が譲渡制限株式を発行することは出来ませんでした。現在注目を浴びている黄金株についても、譲渡制限を付すことが出来ず敵対的な第三者に譲渡される危険があったため、事実上利用されていませんでした(もっとも、国際石油開発株式会社は、東京証券取引所第一部に上場する企業でありながら黄金株を発行していました。この会社は旧石油公団が民営化したという経緯を持つ国策企業であるため極めて特殊なケースであるといえます。黄金株も経済産業大臣が保有しており、敵対的な第三者に黄金株は渡るということも考えられませんでした。)。
これに対して会社法は、「譲渡制限」というものを株式の内容の一つとして捉え直しました(会社法107条1項1号)。そして、内容の異なる種類株式として、特定の株式についてのみ譲渡制限を付すことができるようにしました(会社法108条1項4号)。これによって、上場企業であっても、例えば黄金株のように特定の株式のみを種類株式として譲渡制限株式とすることができるようになったのです。また、従来譲渡制限を付してきた非上場企業にとってみれば、一部の株式だけ譲渡制限を付けない株式を発行できるという側面を有しています。これまで株式に譲渡制限を付していた企業であっても、例えばエクイティファイナンスを実施する際に優先株式を譲渡制限なく発行することが出来ます。投資を行うファンドなどは,投資先企業の取締役会等の承認を得ずに優先株式を譲渡することが出来ますので,投資資金を回収が容易になり,これまで以上に柔軟な資金調達が可能となると期待されています。
したがって、[3]は新会社法によって認められるファイナンスであると言えます。
3 譲渡承認機関と譲渡制限を設ける範囲
旧商法では、株式に譲渡制限を付した場合、取締役会が承認機関でした(旧商法204条1項但書)。しかし、譲渡制限株式の譲渡の可否を取締役会が決定しなければならない論理必然性はありません。例えば、代表取締役が発行済株式の100%の株式を保有している場合にも、譲渡制限株式の譲渡につき取締役会の承認が必要だとするのは不合理な1面を持っています。その会社の株主が代表取締役のみである場合、株主の個性に関心を持つのは当該代表取締役だけですから,当該代表取締役の判断によって株式譲渡の可否を決定すればよいはずなのです。このように譲渡制限株式の譲渡の可否を取締役会が判断しなければならない論理必然性はなく、当該会社の実態に応じて適切な者が判断するのが妥当であり、会社法では定款によって承認機関を定めることができるとされています(会社法139条1項但書)。この際、承認機関を合議体にしなければならないなどという制限は特段なされておらず、代表取締役、取締役会、株主総会、監査役、執行役などその承認機関は幅広く定款に定めることができます。もっとも、通常の場合には意思決定の迅速性や会社の支配の実態などに鑑み、代表取締役が承認機関となるのが多くなると予想されています。
株式に譲渡制限を付す場合、好ましくない者が会社に参加するのを排除する効果が期待できるだけでなく、既存の株主間の持株比率を現状どおり維持する効果も期待できます。なぜなら、通常の場合株式に譲渡制限を付すと株主間の株式譲渡も制限されるため、既存株主間の持株比率も変動しないからです。もっとも、このような制限は既存株主間の持株比率の変動に関心のない会社においては、行き過ぎた規制となります。
そこで会社法では、定款によって、一定の場合には承認機関の承認なく株式を譲渡できることとしました。一定の場合の定め方については、当該会社の実態に応じた定めが可能であり、設問のように従業員持ち株会の会員間の譲渡ということも可能です。
したがって、新会社法では[2]のような制度を設けることも可能となるのです。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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