会社法QA 第9回 取締役会の決議・報告

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 取締役会の決議・報告

【解説】
1 書面決議の容認
 旧商法のもとでは、取締役会は取締役が意見を交換して意思決定をする場であるから、書面決議(持ち回り決議)は認められないものとされていました。
 これに対し、会社法では、取締役が取締役会の決議の目的事項について提案をした場合、その提案につき決議に加わることができる取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社の場合は、監査役がその提案について異議を述べたときを除く)は、その提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるものとしました(会社法370条)。
 すなわち、定款の定めがあり、かつ、上記の要件をみたすときは、電子メールや書面の持ち回りによる取締役会決議が可能となります。

2 重要財産委員会の廃止・特別取締役制度の導入
 旧商法の重要財産委員会制度は廃止され、特別取締役による取締役会の決議という類似の制度が導入されました。
 すなわち、[1]委員会設置会社以外の取締役会設置会社であること、[2]取締役が6名以上存在すること、[3]1名以上が社外取締役であること、という要件をみたす場合は、取締役会は、重要な財産の処分及び譲受けと多額の借財について、あらかじめ選定した3人以上の特別取締役の決議によって行うことができます(会社法373条1項)。
 例えば、代表取締役社長、専務取締役、常務取締役を特別取締役に選定しておけば、首脳陣の意思を迅速に会社経営に反映させることが可能となります。

3 取締役会への報告の省略
 取締役、会計参与、監査役または会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、その事項を取締役会に報告しなくてもよいことになりました(会社法372条1項)。
 ただし、代表取締役または業務執行取締役の職務執行状況報告(会社法363条2項)については、取締役会への報告を省略することはできません(会社法373条2項)。

【質問】
 当社は取締役会設置会社ですが、社外取締役が海外に居住しているほか、社内取締役も各地に分散して執務しています。実際に取締役会を開催するとなると、旅費だけでも莫大な経費がかかるので、すべて電子メールで取締役会決議を行うことにし、現実の取締役会は一切開催しないことにしたいと考えています。このようなことは可能ですか。

【選択肢】
[1] 公開会社でない会社であれば、定款で定めることにより可能
[2] 取締役会設置会社が取締役会を一切開催しないということは不可能
[3] 定款の定めがあり、かつ取締役全員の同意があって、監査役も異議がなければ書面決議が可能だから、結果的に取締役会を一切開催しないのと同じになることはある

【正解】 [2]

【解説】
1 取締役会に関する規定の対象となる会社
 取締役会に関する規定は、当然のことながら取締役会設置会社を対象としています。
 公開会社でない会社(株式譲渡制限会社)は、取締役会の設置を強制されていませんが(会社法327条1項)、任意に設置することは可能です。
 つまり、公開会社でない会社でも、取締役会を設置すれば取締役会設置会社となりますから、その場合には取締役会に関する規定の対象となります。
 そして、取締役会に関する規定中に、公開会社でない会社に対し適用を除外したり、例外を認めたりする旨の規定は1つもありません。
 よって、選択肢の[1]は誤りということになります。

2 取締役会の職務
 定款の定めがあり,かつ取締役全員の同意があって,監査役も異議がなければ取締役会の書面決議が可能であることは、選択肢[3]のとおりです。
 その場合、決議のための取締役会を開催する必要はありません。
 そうすると、すべての決議事項について書面決議にしてしまえば、結果的に取締役会を一切開催しないのと同じになるようにも思えます。
 しかし、取締役会の職務は、業務執行の決定だけではありません。取締役の職務の執行の監督及び代表取締役の選定・解職も、その職務となっています(会社法362条2項)。
 取締役の職務の執行を監督するためには、取締役会は、取締役や監査役等から重要事項について報告を受ける必要があります(会社法365条2項、382条、406条等)。

3 取締役会への報告の省略
 ところで、取締役や監査役等が、取締役(監査役設置会社にあっては取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは,その事項を取締役会に報告しなくてもよいので(会社法372条1項)、やはりその場合には報告を受けるための取締役会を開催する必要はありません。
 そうすると、やはり結果的に取締役会を一切開催しないのと同じになることがあるように思えます。

4 代表取締役等の取締役会に対する職務執行状況の報告
 しかし、代表取締役及び取締役会の決議によって業務執行取締役に選定された取締役は、3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならないとされています(会社法363条2項)。
 そして、この代表取締役等の定例報告については、取締役会への報告の省略を認めている会社法372条1項の適用が除外されています(会社法372条2項)。取締役会による代表取締役等の職務執行の監督を実現させるためです。
 したがって、少なくとも3ヶ月に1回は、実際に取締役会を開催して代表取締役等から、その職務の執行状況の報告を受ける必要がありますから、取締役会設置会社が取締役会を一切開催しないということは不可能です。
 よって、正解は[2]になります。

 

※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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