会社法QA 第29回 差損が生じる組織再編

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 差損が生じる組織再編

【解説】
1 債務超過会社の吸収合併等
 債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併ができるかどうかについて、旧商法のもとでは、消滅会社が存続会社の完全子会社であって、合併にあたって存続会社が新たな株式を発行しないいわゆる無増資合併の場合を除き、許されないと考えられていました。
 これに対し、会社法では、債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併は可能です。また、吸収分割も株式交換も可能です(会社法795条2項)。
 例えば、子会社が債務超過に陥ってしまったとき、その会社が完全子会社でなくても、自社に吸収合併することによって整理することが可能になりました。

2 取締役の説明義務
 取締役は、組織再編によって存続会社(吸収合併の場合)、承継会社(吸収分割の場合)、完全親会社(株式交換の場合)となる会社に差損が生じる場合は、株主総会の承認(会社法795条1項)を受けるにあたって、株主総会においてその旨を説明しなければなりません(会社法795条2項)。
 差損が生じる場合とは、①存続会社が消滅会社から承継する承継債務額(会社施行規則195条1項)が承継資産額(会社施行規則195条2項)を超えるとき(会社法795条2項1号)、または、②存続会社が消滅会社の株主に対し交付する合併対価(存続会社の株式等(会社法107条2項2号ホ)を除く)の帳簿価格が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超えるとき(会社法795条2項2号)です。
 取締役は、合併差損の発生理由・処理方針等を説明した上で合併の承認を受ける必要があります。

3 簡易組織再編の禁止
 簡易組織再編とは、存続株式会社等が消滅会社の株主等に交付する組織再編の対価の額が存続株式会社等の純資産の額の5分の1を超えない場合には、存続株式会社等において株主総会決議を不要とするものです(会社法796条3項)。
 しかし、交付する対価が小さい場合でも、組織再編の結果、存続株式会社等に差損が生じるような場合には、株主への影響は無視できません。そのため、会社法は、株主保護のために、簡易組織再編の要件を満たしている場合であっても、差損が生じる場合には、簡易組織再編をすることができないものとしました(会社法796条3項ただし書)。

【質問】
 債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることができますか。また、株式交換により、完全親会社が完全子会社の債務を承継することはありますか。

【選択肢】
[1] 債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることはできない。株式交換により完全親会社が完全子会社の債務を承継することもない。
[2] 債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることはできる。株式交換により完全親会社が完全子会社の債務を承継することもある。
[3] 債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることはできる。株式交換により完全親会社が完全子会社の債務を承継することはない。

【正解】 [2]

【解説】
1 債務超過会社の完全子会社化
 本文で説明したとおり、会社法では、債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併は可能です。また、吸収分割も株式交換も可能です(会社法795条2項)。
 株式交換により完全子会社化しようとする場合、完全親会社となる会社は、完全子会社の株式をすべて取得して対価を交付することになります。
 完全子会社が債務超過の場合、完全子会社の株式の価値はゼロないしマイナスであるとも考えられ、そうすると、その対価として完全親会社の株式等を交付することはできないようにも思えます。
 しかし、当事者同士で完全子会社の株式に何らかの経済的価値を見出すのであれば、完全親会社が完全親会社の株式等を対価として交付することを禁止する必要はありません。
 したがって、債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることはできます(相澤哲=葉玉匡美=郡谷大輔『論点解説 新・会社法』(2006年、商事法務)675頁参照)。

2 株式交換における債務の承継
 株式交換は、完全親会社となる会社が、完全子会社となる会社の発行する株式のすべてを承継する組織行為です。
 あくまでも株式の承継であって、完全子会社の財産の移動を生じないのが原則です。
 しかし、完全子会社が、新株予約権や新株予約権付社債を発行している場合があります。このような場合に、それらを完全子会社に発行させたままにしておくと、完全子会社が第三者に新株を発行してしまい、完全親会社による子会社株式の100%保有状態が崩れてしまうことになりかねません。
 そのため、会社法では、①完全子会社の新株予約権者に対し、完全親会社が新株予約権を交付することで、完全子会社の新株予約権を消滅させることができるようにしています(会社法768条1項4号ロ)。また、②完全子会社の新株予約権付社債については、さらに親会社が新株予約権の社債部分を承継することができるようにしています(同号ハ)。
 したがって、②の場合には、完全親会社が完全子会社の債務を承継することになります(相澤=葉玉=郡谷、前掲書、674頁~675頁参照)。

3 【質問】の解答
 以上のとおり、債務超過会社を完全子会社とする株式交換をすることはできますし、株式交換により完全親会社が完全子会社の債務を承継することもあります。
 よって、正解は[2]になります。

 

※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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