税理士賠償責任 対依頼者にとどまらない税理士の責任 平成13年8月
一 対依頼者にとどまらない税理士の責任
税理士の専門的職業人としての責任が問題となるのは、通常、依頼者など契約関係にある者との関係です。しかし、税理士の行為によって第三者に損害が発生したといえる場合、すなわち損害との間に因果関係ありと認定できる場合には、税理士の第三者に対する不法行為責任が成立します。
一〇年以上前の高裁判例になりますが、税理士の作成した内容虚偽の確定申告書の記載を真実と信じて保証・担保提供をした者に対し、税理士の損害賠償責任が認められた事例がありました。今回は、この事例をご紹介致します。
二
事案の概要
A税理士は、B会社の顧問税理士として決算書類の作成、税務申告、会計帳簿の記載の指導等の業務を処理していました。B会社は当時赤字の会社であり、その事業年度は5千万円以上の欠損を出した旨の確定申告書を税務署に提出していました。しかし、赤字の確定申告書を示せば銀行からの融資は受けられません。そこでA税理士は、B会社代表者の求めに応じて、銀行提出用の虚偽の黒字の確定申告書を作成したのです。
原告(控訴人)であるCは、その後、B会社から資金の融通、銀行借入の保証、担保の提供を依頼されました。その際、示されたのがA税理士の作成した虚偽の確定申告書でした。Cはこれを信じてB会社のために保証・担保提供したのですが、間もなくB会社は倒産してしまいます。Cは4千万円を超える金額の支払いを余儀なくされました。
そこでCは、B会社が赤字の会社であるならば保証や担保提供をする意思はなかったとして、A税理士に2千万円の損害賠償を請求したのです。
三
A税理士の虚偽の確定申告書作成とCの損害には因果関係あり。
裁判所は、A税理士の虚偽の確定申告書作成とCの損害には因果関係があるとし、A税理士の不法行為責任の成立を認めました。裁判所は、以下のように述べています。
[1] A税理士はB会社の代表者がこれを利用して融資先を欺いてB会社の金融を得ることを知りながら、B会社の実情を粉飾し、このような虚偽の内容を記載した書類を作成したものである。
[2] すなわちA税理士は、これによりB会社に対して融資をする者が損害を受けるかもしれないことを予見しながらあえてこのような虚偽の内容を記載した書類を作成したものであることが認められる。
[3] したがって、A税理士は、その作成した書類の記載を信用して融資をし(保証・担保提供も含む)、損害を受けたものに対しては、その損害を賠償する義務があるものといわなければならない。
実はCは、融資を始めたころからB会社の取締役になっていました。そこで裁判所は、CはB会社の帳簿類を閲覧しその営業実績を調査することができたはずであり、それをしていれば確定申告書が虚偽であることを知り得たのにそれをしなかったとしてCにも過失を認めました。この過失相殺により結論としては1千万円のみCの請求を認容しています。
この判例は、税理士の第三者に対する不法行為の成立を認めた事例として、現在でも注目に値する判例です(仙台高裁昭和63年2月26日判決)。
関連するコラム
-
2024.11.18
橋本 浩史
株主を賃貸人とし同族会社を賃借人とする不動産の賃貸借契約に所得税法157条1項(同族会社の行為計算否認規定)の適用の可否が争われた税務判決 ~大阪地方裁判所令和6年3月13日判決TAINS Z888-2668(控訴)~
1 はじめに 所得税法157条1項は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等で…
-
2024.10.20
山田 重則
固定資産税実務Q&A
<総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 近年、新聞報道された過大徴収事案には…
-
2024.10.15
橋本 浩史
消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」(対価性)の意義が争われた税務判決 ~名古屋地方裁判所令和6年7月18日判決TAINS Z888-2624(控訴)~
1 はじめに 消費税法2条1項8号は、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を…
-
2024.09.30
山田 重則
Q 近年、新聞報道された過大徴収事案にはどのようなものがあるか?
A 近年、新聞報道された主な過大徴収事案は、下表のとおりです。ここから読み取れることは、①過大徴収は…