国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 生活用動産の譲渡による所得

第5回 生活用動産の譲渡による所得

 納税者又はその親族の生活に通常必要な家具、什器、衣服その他の動産の譲渡による所得は、非課税とされます(所得税法9条1項9号)。ただし、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、宝石、書画、こっとう及び美術工芸品などを譲渡した場合の所得は、非課税所得に該当しません(所得税法施行令25条)。この規定は、戦後の“竹の子生活”といった経済状態を考慮し、零細な所得を追及しないという執行上の配慮、あるいは家庭用動産は投機目的で所有するものではなく、通常は購入価額以上で売却できるものではないという理由などから設けられたものです。
 したがって、所得税法では、生活に通常必要な動産であっても、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属等の譲渡による所得を非課税所得から除外するとともに、生活に通常必要でない動産の譲渡による所得は課税対象としているのです。つまり、生活用の動産には、生活に通常必要なものと通常必要でないものとがあり、前者の譲渡所得については、原則非課税とするとともに、その損失はないものとし(所得税法9条2項)、後者の譲渡所得については、課税対象とする一方で、その損失は別途他の所得と通算できないこととしているのです(所得税法69条)。この点が所得税法の適用と解釈の難しいところです。
 サラリーマンのマイ・カーが「生活に通常必要な動産」に当たるかどうかについて争われた裁判例では、第一審の神戸地裁判決(昭和61年9月24日)では、通勤に使用した自動車の走行距離や大衆車であることなどを理由に、マイ・カーは生活に通常必要な動産であると判示しましたが、その控訴審である大阪高裁判決(昭和63年9月27日)は、通勤のために自動車を使用した割合はわずかであり、使用の態様からみて、マイ・カーは生活に通常必要でない動産に当たると判示しております。所得税法では、生活に通常必要な動産であっても通常必要でない動産であっても、その譲渡損失を給与所得など他の所得と通算することができないこととしておりますので、結論は同じになります。自動車の売却は、通常損失が生じますので、マイ・カーが生活に通常必要な動産であるかどうかは、損益通算という場面ではそれほど重要ではないのです。しかし、この区分は、雑損控除の適用の場面においては重要です。マイ・カーが生活に通常必要な動産に該当すると、その災害、盗難又は横領による損失は所得控除の対象となりますが、生活に通常必要でない動産に該当すると所得控除の対象とならないのです。

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