国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 オリンピック報奨金と税金

第9回 オリンピック報奨金と税金

 今世紀初めてのオリンピックがソルトレークシティで開催されましたが、日本の選手団は、長野大会のメダル10個から今回の銀1個、銅1個とメダルの大幅減となりました。オリンピックメダリストには、(財)日本オリンピック委員会から報奨金(金メダル300万円、銀メダル200万円、銅メダル100万円)が贈呈されますが、この報奨金については、平成6年の税制改正で、オリンピック競技における成績優秀者を表彰するものとして交付される金品が非課税とされております。((租税特別措置法41の8))(※註1)。その契機となったのは、バルセロナ大会での女子平泳ぎ200メートルで岩崎恭子選手が金メダルを獲得した時です。「中学生が国のために尽くしたのに税金をとるなんて」と非難され、話題になりました。当時、この報奨金は所得税法上の一時所得に該当すると理解されておりましたので、本人に所得税が課される上、父親も扶養控除ができないことになるというわけです。一時所得の金額は{3,000,000-500,000}÷2=1,250,000となり、この場合の本人の税額は87,000円となるのです。この非課税措置で、オリンピック報奨金も文化功労者の年金やノーベル賞受賞者の賞金並の扱いがされたとして、スポーツ界では、「文化に負けない社会的評価、地位の向上」と高く評価しております。今回のメダリストであるスピードスケートの清水宏保選手と女子モーグルの里谷多英選手の受け取る報奨金も所得税が課税されません。
 ところで、このような報奨金が一時所得に該当するという解釈に疑問はなかったのでしょうか。所得税法上の一時所得とは「継続性」と「対価性」(労務その他の役務又は資産の譲渡の対価)を有しない所得をいうのですから、「継続性」と「対価性」を有しないかどうかの検討が必要となるのです。清水選手も里谷選手も長野大会のゴールドメダリストですが、長野大会に続くメダルでも、また仮に、今大会で3個のメダルを取得したとしても、所得税法上の「継続性」があるとは解されません。清水選手はNECに、里谷選手はフジテレビにそれぞれ勤務しておりますが、オリンピックで優秀な成績を挙げたことは、勤務の対価でも競技に参加した役務の対価でもないのです。このような報奨金や賞金は、偶発的な所得であることから、一時所得に該当すると解されております。もっとも、プロ野球の選手等が受ける澤村賞や正力賞、作家が受ける芥川賞、直木賞などは、事業活動の一環として受け取るものであって、「対価性」を有していると解されます。「対価性」があるかどうかの判定は難しいものです。

※註1
オリンピック競技大会における成績優秀者を表彰するものとして交付される金品の非課税
租税特別措置法第41条の8
オリンピック競技大会において特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして財団法人日本オリンピック委員会から交付される金品で財務大臣が指定するものについては、所得税を課さない。

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