国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 死亡退職金を受け取ったとき
第10回 死亡退職金を受け取ったとき
死亡退職金は、死亡した人にいったん帰属した上で、遺族が相続によって承継するのか、又はその支給を受ける遺族が原始的に取得するものであるかについては、民法上も議論のあるところです。
税法では、この死亡退職金について、被相続人の死亡により相続人等が被相続人に支給されるべきであった退職手当、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続人等が相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定されております(相続税法3条1項2号)。そして、所得税法では、相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(みなし相続財産等を含む。)は非課税とされておりますから(所得税法9条1項15号)、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金は、所得税の課税対象外となります。
そこで、被相続人の死亡後3年を経過して死亡退職金が支給されることとなった場合には、その死亡保険金は、みなし相続財産に該当しないので、所得税が課税されますが、その所得区分は、何になるかという問題があります。ストックオプション税務訴訟における被告の主張によれば、「勤労に由来する所得」は給与所得の要件である「対価性要件」を充足するそうですから、被相続人の勤労に由来する所得である死亡保険金は、給与所得又は退職所得に該当するのではないかという疑問が生ずるのです。しかし、この場合の死亡退職金は、相続人等が取得するものであって、相続人等の勤務の対価ではないから、給与所得や退職所得には該当せず、臨時的・偶発的な所得である一時所得に該当するのです(所得税基本通達34-2)。
なお、死亡退職金ではありませんが、例えば、会社役員が生前に退職し、その際は退職金を受けずに死亡し、その後、株主総会等で退職金を支給する決議がされた場合には、 その相続人等が受け取る退職金は、その支給決議が死亡後3年以内にされていると、みなし相続財産に該当することになります(相続税基本通達3-31)。ただし、会社役員が生前に退職し、生存中に退職金が確定した後に相続開始があった場合には、その退職金に対しては所得税が課税され、その所得税を差し引いた残余の金額が相続人等の本来の相続財産として、相続税が課税されます。
関連するコラム
-
2024.11.18
橋本 浩史
株主を賃貸人とし同族会社を賃借人とする不動産の賃貸借契約に所得税法157条1項(同族会社の行為計算否認規定)の適用の可否が争われた税務判決 ~大阪地方裁判所令和6年3月13日判決TAINS Z888-2668(控訴)~
1 はじめに 所得税法157条1項は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等で…
-
2024.10.20
山田 重則
固定資産税実務Q&A
<総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 近年、新聞報道された過大徴収事案には…
-
2024.10.15
橋本 浩史
消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」(対価性)の意義が争われた税務判決 ~名古屋地方裁判所令和6年7月18日判決TAINS Z888-2624(控訴)~
1 はじめに 消費税法2条1項8号は、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を…
-
2024.09.30
山田 重則
Q 近年、新聞報道された過大徴収事案にはどのようなものがあるか?
A 近年、新聞報道された主な過大徴収事案は、下表のとおりです。ここから読み取れることは、①過大徴収は…