国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 所得を総合して課税するのが原則
第16回 所得を総合して課税するのが原則
所得税法では、個人に帰属する所得を10種類に分類した後に、これを総合して課税する総合課税を原則的な課税方式としております。総合課税は、稼得した所得をすべて統合するので、納税者の総合的な税負担能力(担税力)に応じて累進税率を適用することができ、垂直的公平の確保に優れていると言われております。平成12年7月の税制調査会中期答申においても、「個人所得課税の理念として総合累進課税が基本である」と述べております。もっとも、総合課税を原則とするといいながらも、所得税法では、退職所得や山林所得は分離課税としております。退職所得や山林所得は、長期にわたる勤労や山林育成により蓄積された所得であって、それが退職や山林の伐採という段階で一時に実現するものですから、累進税率の緩和の措置が必要なのです。また、租税特別措置法では、[1] 利子所得や配当所得などの個人の貯蓄・投資の奨励、[2] 株式又は土地等の譲渡益などの政策的な観点から、多くの所得について分離課税を採用しております。そして、その分離課税方式においても、次に記載するとおり、申告分離課税と源泉分離課税(これについても、一律源泉分離課税と源泉分離選択課税があります)があるなど、税制を複雑にしております。
1 申告分離課税・・・ 山林所得又は土地や株式の譲渡に係る所得など、確定申告によって他の所得と分離して納税するもの
2 源泉分離課税・・・ 次の二つがあります。
(1)一律源泉分離課税・・・ 利子所得や金融類似商品の収益など、支払段階で一律に所得税が天引きされ、改めて申告納税をする必要のないもの
(2)源泉分離選択課税・・・ 配当所得や株式の譲渡に係る所得など、源泉分離課税を選択すると、支払段階で一律に所得税が天引きされ、改めて申告納税をする必要のないもの(株式の譲渡に係る所得は、本年限りで、源泉分離選択課税が廃止されます。)
本年度の税制改革論議の中でも、経済財政諮問会議などは、給与などの「勤労所得」と、利子などの「資本所得」に二分し、別々の税率を課する『二元的所得税』が浮上してきております。二元的所得税とは、[1] 利子・配当・キャピタルゲインといった金融所得、不動産所得、譲渡所得等と、[2] 勤労性の所得等に区分し、前者に低税率の比例的な税率で課税し、後者については累進的税率で課税するという仕組みです。北欧で実施されている税制だそうですが、これからの税制改革として注目されるところです。
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