国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 所得は10種類に分類
第17回 所得は10種類に分類
所得税法では、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得の10種類に分類して、課税標準である総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額を計算する仕組みを採っております。法人税法における法人所得のように、すべての収入金額を一括して益金とし、これから損金の額を差し引くというような仕組みを採っていないのです。所得税法がこのように所得分類をしているのは、主として次の点にあると言われております。
その一つは、所得金額の計算技術上の要請にあるのです。ご案内のように、事業所得や不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて所得金額を算出しますが、給与所得や退職所得は、収入金額から必要経費を差し引いて計算するのではなく、給与所得控除や退職所得控除を差し引くという構造を採っております。給与所得についても給与収入から必要経費を差し引くことを認め、サラリーマンにも確定申告の道を拓く税制が提唱されております。しかし、給与所得の必要経費とは何か、背広や靴等の身の回り品の購入費用、部下や同僚等の交際費などが必要経費に該当するか、それとも家事費なのか、いろいろな議論があります。そこで、現行法では、給与所得や退職所得については必要経費に代えて給与所得控除や退職所得控除を設けて、収入金額からこれを差し引き、所得金額を算出することとしているのです。このように、所得金額の計算の便宜という観点から、所得の分類が必要とされるという訳です。
もう一つは、担税力に応じた課税の実現にあるのです。所得の中には、毎年、繰り返して回帰的に発生するもの(事業所得や給与所得など)と、臨時的に発生するもの(譲渡所得や一時所得など)がありますし、汗水たらして獲得した勤労性の所得(給与所得や退職所得)と、資産を有しているが故に発生する資産性の所得(利子・配当所得や不動産所得など)もあります。事業所得は勤労と資産の共同の所得です。勤労性の所得には軽い課税を、資産性の所得には重い税負担を課すという思想が出てくるのです。退職所得については、退職所得控除後の金額について2分の1の金額を課税標準とし、他の所得と総合しないで分離課税とする方式を採っているのもこのためです。また、山林所得は分離課税方式を採るとともに、5分5乗という低い税率を使うこととしておりますし、長期譲渡所得や一時所得は2分の1の金額を課税対象としているのです。
このような所得分類がある故に、所得税法の実務に当たっては、所得の区分が最も難しいと言われるのです。