国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 サッカー選手の報奨金

第18回 サッカー選手の報奨金

 今回のW杯で大活躍をした韓国と日本のサッカー選手には、それぞれのサッカー協会からボーナスが支給されるという報道がありました。韓国の選手には1人3,000万円のボーナス、日本の選手には税込みで1人750万円のボーナスが支給されるとのことです。わが国では、プロ野球の選手、競馬の騎手、競輪の選手などとともに、プロサッカー選手などが受け取る報酬については、その支払を受ける際に所得税の源泉徴収がされることになっております。したがって、日本選手が750万円の報酬を受け取る場合には、(100万円×10%+650万円×20%=140万円)の所得税が源泉徴収されますので、手取りの報酬は610万円となるのです。報酬・料金等に対する源泉徴収の歴史は古く、昭和19年に外交員の報酬や原稿・作曲等の報酬などにはじめて源泉徴収制度が採用され、昭和27年にはプロ野球の選手や競馬の騎手、競輪の選手の報酬等、昭和42年にはプロボクサー、プロレスラー、プロゴルファーの報酬等も源泉徴収の対象とされております。プロサッカーやプロテニスの選手、自動車レーサーが受け採る報酬が源泉徴収の対象とされたのは、比較的新しく平成5年の税制改正からです。新しいプロスポーツなどが生まれる都度、その報酬に対して源泉徴収の対象とする税制改正が行なわれているのです。

 ところで、今回のプロサッカー選手が受け取るボーナスは、源泉徴収だけで課税が終わるわけではありません。この所得は源泉分離課税ではありませんので、他の所得と総合して確定申告をする必要があるのです。この場合の所得区分は、プロの選手が受け取るものであるだけに、一時所得ではなく事業所得に該当することになります。つまり、臨時的なボーナスであっても、プロの選手が受ける報酬は、事業活動の一環として獲得したものであり、偶発的な所得とは解されないのです。ご案内のように、オリンピックのメダリストが受け取る報奨金は非課税ですが、非課税措置が手当てされる平成6年の改正前は、一時所得として50万円控除後の2分の1が総合課税の対象とされておりました(その経緯については第9回を参照してください)。オリンピックの選手はアマチュアですから、メダルを獲得するのは極めて偶発的と考えているのです。それに比し、W杯サッカー選手はプロですから、報奨金を獲得して当然というのでしょう。オリンピックのゴールドメダリストが受ける報奨金は300万円ですから、今回のボーナスが多いかどうかはともかく、所得税の解釈において所得を分類することの難しさを感じさせます。韓国の選手に対する課税は、どのようになるのでしょうか。報道では、兵役免除の特権も与えられるそうですなから、所得税も課税されないことになるのでしょうか。興味のあるところです。プロ野球のイチロー選手が高額納税者番付から消えたように、日本の税率が外国の税率よりも高いと、優秀な人材が海外に流出することになります。