国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 不動産貸付けの権利金と所得区分
第26回 不動産貸付けの権利金と所得区分
借地権や地役権の設定により他人に土地を長期間にわたって使用させる場合には、多額の権利金が授受されるのが通常です。この場合の権利金は、不動産の貸付けによる対価に該当しますから、原則として不動産所得になります。ここで、原則としてというのは、譲渡所得に該当する場合があるからです。所得税法では、建物又は構築物の所有を目的とする借地権の設定に伴い、その対価として権利金を取得した場合で、権利金の額が土地の更地としての価額の2分の1を超えるなど一定の要件を満たしているときは、譲渡所得として課税することとしております。つまり、借地権等の設定により建物等が建築されると、地主は、単に「底地」の利用に供する対価として地代収受権を有するにとどまり、その土地の更地価額のうち土地の利用権に当たる部分を半永久的に譲渡したものと異ならないことから、不動産所得ではなく譲渡所得に該当するものとされているのです。この種の権利金の性質は、地代の前払いにとどまらないというわけです。
そして、借地権等の設定行為が資産の譲渡とみなされるのは、次の要件を満たすものをいいます。
1 譲渡所得の対象となる借地権等とは、[1] 建物や構築物の所有を目的とする地上権もしくは賃借権(借地権)と、[2] 特別高圧架空電線の架設、特別高圧地中電線もしくは高圧のガスを通ずる導管の敷設、飛行場の設置、ケーブルカーやモノレールの施設、砂防施設である導流堤又は遊砂地の設置、公共施設の設置、特定街区内における構築物の建築等の目的のために設置される地役権で、建造物の設置を制限するものに限られます。なお、[1] の借地権の設定には、借地権が設定されている土地を転貸する場合も含まれます。
2 借地権等の設定の対価として受け取る権利金は、その土地の更地価額(借地の転貸の場合は、その借地権部分の価額)の2分の1(その設定が地下又は空間について上下の範囲を定めた借地権・地役権の設定である場合は4分の1)に相当する金額を超える場合に限られます。
なお、権利金の額が地代の年額の20倍に相当する金額を超えるときは、その権利金は譲渡所得に該当するものと推定されます。
3 借地権等の設定をしたことに伴い、通常の場合の金銭の貸付条件に比べて特に有利な条件による金銭の貸付その他特別の経済的利益を受ける場合には、その経済的な利益の額を権利金の額に加算し、その加算した後の金額をもって、上記2の要件に当たるかどうかを判定します。
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