国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 事業所得と譲渡所得の区分
第35回 事業所得と譲渡所得の区分
事業所得とは、各種の事業活動から生ずる所得をいい、事業の遂行に付随して生ずる収入も事業所得の総収入金額に含まれます(第28回参照)。商品の製造や販売等は本来の事業活動ですが、営業用固定資産等の売却も事業に付随するものであることには相違ありませんから、その売却収入も事業所得に該当するのではないかという疑問が生じます。しかし、所得税法では、資産の譲渡による所得は譲渡所得とし、[1]たな卸資産(これに準ずる資産を含む)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得、及び[2]山林の伐採又は譲渡による所得のみを譲渡所得から除外しております。したがって、営業用固定資産等の売却収入は、譲渡所得から除外される所得に該当しないので、譲渡所得に当たることになるのです。つまり、譲渡所得は、資産の譲渡の機会にキャピタルゲインが一時に実現したとして課税するのですから、特別控除(50万円)や長期譲渡所得に対する累進負担の緩和措置(2分の1課税)が採られているところ、事業用の固定資産の譲渡による所得もキャピタルゲインですから、これらの措置の適用がある譲渡所得とされるのです。
そこで、事業所得と譲渡所得の区分に当たっては、「たな卸資産等の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に当たるかどうかが重要となります。この点に関して国税庁は、次のように取り扱っております。
イ 貸衣装業における衣装類の譲渡、パチンコ店におけるパチンコ器の譲渡、養鶏業における採卵用の鶏の譲渡のように、その事業の用に供する固定資産を反復継続して譲渡することが事業の性質上通常である場合、その固定資産の譲渡による所得は事業所得に該当する。
ロ 金融業者が担保権の実行等により取得した土地、建物、機械等の資産を譲渡した場合の所得は、金融業から生ずる事業所得に該当する。
ハ 固定資産であった土地に販売の目的で宅地造成を行い、又はその上に建売住宅を建設したような場合には、その土地は「固定資産」から「たな卸資産又はこれに準ずる資産」に転化したものと考えられ、その譲渡による所得は事業所得又は雑所得に該当する。ただし、[1]宅地造成等をした土地が小規模(おおむね3,000m2以下)であるときは譲渡所得、[2]その土地が極めて長期間(おおむね10年以上)保有されていたものであるときは、宅地造成等に着手する直前の土地の値上り益に相当する部分を譲渡所得、宅地造成等の加工利益に相当する部分を事業所得又は雑所得として差し支えない。
2003.6.10