国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 給与所得の意義
第37回 給与所得の意義
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいい、収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します。給与所得の典型的なものは、雇用契約に基づいて被用者が雇用者から受ける報酬ですが、これに限らず、広く雇用契約又はそれに類する関係その他一定の勤務関係に基づいて受ける報酬が給与所得に該当することになります。超過勤務手当、役付手当、家族手当、住宅手当などの各種の手当や現物給与といわれる経済的利益も勤務の対価としての性格を有するものは、給与所得に該当します。つまり、給与所得とは、一定の勤務関係に基づき、その勤務の対価として使用者から受ける報酬をいうのです(ただし、退職に伴い一時的に支払われるものは退職所得に分類されます)。最高裁判所も、「勤労者が勤労者たる地位に基づいて使用者から受ける給付は、すべて給与所得を構成する」(昭和37年8月10日判決・民集16巻8号1749頁)とし、「給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務または役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない」(昭和56年4月24日判決・民集35巻3号672頁)、と判示しているところです。
ところで、最近、従業員等が自己の勤務する法人の親会社からストックオプションを付与され、その経済的利益は給与所得か一時所得かが争われており、注目されております。国税不服審判所(平成13年12月25日裁決・事例集�62号92頁)は、この事案について、「子会社の従業員たる地位に基づき、親会社の株式を購入することができる権利を親会社から付与された利益は、非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得であるから、給与所得に該当する」と結論づけました。しかし、裁決の理屈はたいへん分かりにくいものと思います。ストックオプションに係る経済的利益が従業員の提供した労務の対価に該当するのであれば、その経済的利益が給与所得に該当するのは当たり前ですが、対価はその労務の提供を受けた子会社が支払うべきものでしょう。子会社に対する労務の対価を親会社が支払ったというのであれば、親会社は子会社に対して経済的利益を供与したことになり、親会社の支出した金員は寄付金、子会社は受贈益を計上するというのが税法の取扱いです。裁決がこの見解を採っているとも思えません。
2003.6.20
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