国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 給与所得控除の性格

第39回 給与所得控除の性格

 給与所得は、給与収入の金額から、その収入金額に応じて算定される給与所得控除を差し引いて算出します。

 不動産所得や事業所得の金額は、収入金額から必要経費を差し引いて計算しますが、給与所得については、必要経費ではなく給与所得控除を収入金額から差し引くのです。

 給与所得についても、必要経費に該当する支出を観念できますが、旅費や通勤費あるいは職業上必要な用具の購入費などは、通常、使用者が負担する場合が多いでしょうし、教養のための書籍代のほか、衣服、靴等の身の回り品の購入費用、部下や同僚等の交際費などは、「家事費」又は「家事関連費」であって、所得税法上の必要経費には該当しません。

 このため、給与所得控除が必要経費の概算控除としての意味をもっているのです。かつて税制調査会は、給与所得控除の性格について、

[1]勤務に必要な経費の概算的な控除、
[2]給与所得が本人の勤労による所得で、有期的かつ不安定であり、他の所得に比して担税力が弱いことに対する斟酌、
[3]給与所得が源泉徴収の方法で徴税され、他の所得に比して相対的に把握が容易であることに対する配慮、
[4]源泉徴収による早期納税に伴う金利の調整、

の四つの要素があると言っておりました。

 平成12年7月の中期答申「わが国の税制の現状と課題」では、給与所得控除の性格について、「勤務費用の概算控除」及び「他の所得との負担調整」の二つの要素が含まれると整理し、雇用形態の変化などを挙げて「他の所得との負担調整」という配慮の必要性が薄れてきているので、今後は、勤務費用の概算控除としての性格をより重視する方向で、そのあり方について検討すべきであるとしております。

 また、今年6月の中期答申「少子・高齢社会における税制のあり方」でも、給与所得控除については、勤務に伴う経費の概算控除として明確化すべきであると言っております。

 税制調査会の流れは、給与所得者に対する課税強化に向いているのです。近年の雇用形態は、派遣労働やフリーターの増加、年俸制を取り入れる企業など多様化が進んでおりますが、完全失業率が5%に達するなど、給与所得者の担税力が弱いことには替わりはありません。

 給与所得控除の水準が今日のように大幅に拡充されたのは、給与所得者の税負担が他の所得者に比べて相対的に重いという点が配慮されたからです。「クロヨン」「トーゴーサンピン」の論議に見られるとおり、サラリーマンの税の補足率は9割(10割)、自営業者のそれは6割(5割)、農家は4割(3割)、政治家は1割と比喩的に表現されているのです。

 サラリーマンの収入は、源泉徴収によってほぼ90%強把握されているのです。勤務費用の概算控除という観点からだけで、給与所得控除額を議論するのはいかがでしょうか。
2003.6.30

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