国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 源泉徴収にふさわしいものが給与所得
第41回 源泉徴収にふさわしいものが給与所得
無効又は違法等の行為に基づく所得が課税所得を構成することは、多くの識者の認めるところですが、役員等が会社の資金を不法に取得しているときの利益は給与所得に該当するのでしょうか。
課税の実務においては、いわゆる認定賞与の課税のように、役員が現実に会社から利益を得ている場合には、それが会社からの横領によるものか、実際に賞与として受けているものかをせんさくすることなく、経済的利益を受けている事実に基づいて課税処理がされるのです。
しかし、現実に役員等が会社の資金を横領していることが判明した場合においても、会社は役員に賞与を支払ったものとして所得税の源泉徴収をしなければならないのでしょうか。
この点が争われたものに、京都地裁平成14年9月20日判決があります。事案は、社会福祉法人の理事長が法人の経理を水増しし、不正に捻出した資金を自己の簿外預金に送金していたという事実関係の下で、その預金口座に入金された金員が理事長に対して賞与を支給したとする納税告知処分の取消しを求めたものです。
課税庁は、「社会福祉法人の預金口座から理事長の簿外預金口座への金員の移動は、理事長の職務執行の対価あるいは理事長の地位との関係でされたものであるから、賞与を支払ったとみることができる」と主張したのです。
これに対し、裁判所は、源泉徴収制度の仕組みについて詳しく論じた上で、「源泉徴収の対象となる所得については、源泉徴収手続をするのに相応しい内容の所得を念頭に置いているものと解され、給与所得となる賞与の意味も、また、所得税の源泉徴収をする場合の「支払の際」の意味も、このような観点をも加味して考えるべきであるとして、「理事長による横領行為の被害者ともいうべき社会福祉法人に対し、理事長の所得について源泉徴収をして納付する義務があることを前提とする本件処分は、いかにも不当な結論であると考えられる。」として課税庁の主張を排斥しております。
判決の言うとおり、源泉徴収制度は給与等から所得税を天引きする制度であることを前提にしているのであって、最高裁判所も「源泉徴収制度によって、国は所得税の徴収を確保し、徴収手続の費用と労力を節約でき、担税者は申告、納付等の繁雑な事務から免れ、また、徴収義務者は天引後翌月10日までに納付すればよいから、その利益となるところもあり、この制度は、全体として能率的合理的であって、公共の福祉の要請に応えるものである」と判示しているのです(最高裁昭和37年2月21日大法廷判決、刑集16巻2号21頁)。
源泉徴収手続にふさわしくない所得は給与所得に該当しないという京都地裁の判決に説得力があります。親会社から子会社従業員等に付与されたストックオプションの行使益は、給与所得に該当するというのが国税当局の見解ですが、この利益が源泉徴収手続にふさわしい給与所得に該当すると言えるか、再検討の余地があると思います。
2003.7.10
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