国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 退職所得に関する最高裁判決
第43回 退職所得に関する最高裁判決
打切り支給の退職手当が所得税法上の退職所得に当たるかどうかについては、二つの最高裁判所の判決があります。
その一つは、5年定年制に基づき会社から勤続5年に達した従業員に対して、退職金名義で支給された金員が給与所得に当たるとした昭和58年9月9日の判決です。
もう一つは、10年定年制に基づき会社から勤続10年に達した従業員に対して支給された金員の所得区分が争われた昭和58年12月6日の判決です。
これらの判決の原審は、
[1] 5年定年制に基づく金員が給与所得に当たると判断した東京高裁昭和53年3月28日と
[2] 10年定年制に基づく金員は退職所得に当たると判断した大阪高裁昭和53年12月25日とに分かれており、その行方が注目されておりました。
最高裁判所は、ある金員が所得税法にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるためには、
[1] 退職則ち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
[2] 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
[3] 一時金として支払われることの要件を備えることが必要であるとした上で、5年定年制に基づく退職金名義の金員は、「勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること」という[1]の要件を欠くことは明らかであるから、退職所得に当たらないと判示しました。
次いで、最高裁判所は、10年定年制に係る事件についても、上記の判決を引用した上で、「継続的な勤務の途中で支給される退職金名義の金員が、実質的にみて右の三つの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うためには、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により、精算の必要があって支給されるものであるとか、
あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するものと解すべきであると判示しました。その上で、原審の確定した事実関係の下においては、未だ、右のように本件金員が「退職により一時に受ける給与」の性質を有する給与に該当することを肯認させる実質的な事実関係があるということはできないとして、原審に差し戻しております(差戻審の大阪高裁昭和59年5月31日判決では、当該金員は給与所得に該当するとした)。
この最高裁判所の判決の意味するところは、これからの企業が退職金の打切り支給をする場合、その金員が退職所得に該当するかどうかの判断基準となると思われます。
2003.7.28
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