国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 限定承認と譲渡所得

第48回 限定承認と譲渡所得

 最高裁判所昭和47年12月28日判決(民集26巻10号2083頁)では、「譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得とし、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しない。」と判示しております。
 この判決の見解に従えば、贈与や相続によって資産の移転があった場合にも、時価により資産の譲渡があったものとして譲渡所得が生ずることになります。しかし、現行の所得税法では、譲渡所得の金額は現実に収入すべきこととなった金銭その他の経済的利益を基として所得計算を行うこととし、「別段の定め」がない限り、贈与や相続等の無償による資産の移転については、譲渡所得が生じないこととしております。
 そして、所得税法に定める「別段の定め」には、譲渡所得の基因となる資産を
[1] 法人に対して贈与又は遺贈をした場合
[2] 法人に対して時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合のほか、
[3] 個人については限定承認に係る相続又は包括遺贈による資産の移転があった場合にのみ、みなし譲渡課税を行うこととしているのです。
 限定承認というのは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務や遺贈を弁済するのを条件に相続の承認をするものです(民法922条)。
 したがって、限定承認に係る相続等の場合においても、譲渡所得課税を行わず取得価額を引き継ぐこととした場合には、その相続人が債務の弁済のために相続によって取得した資産を譲渡すると、その譲渡による所得は、相続人の所得として課税されるわけですから、本来被相続人に課されるべき所得税を相続人が自己の財産から負担するという結果が生ずるのです。
 このため、限定承認に係る相続等については譲渡所得として課税することとしたものです。
 この点について、東京地裁平成13年2月27日判決は、「限定承認制度が設けられた趣旨を尊重し、被相続人の所有期間中における資産の値上り益を被相続人の所得として課税し、これに係る所得税額を被相続人の債務として清算するために、当該相続財産のうち、譲渡所得の基因となる資産については相続開始時点におけるその価額に相当する金額による譲渡があったものとみなして被相続人に譲渡所得課税を行うこととし、これにより、相続人は、右によって課税された所得税を含めた相続債務を弁済する義務を負うものの、相続財産が相続債務を超えるか否かにかかわらず、相続財産の限度を超えて被相続人の債務を負担することはないこととしている。」旨判示しております。
2003.10.10

関連するコラム