国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 立退料の所得区分

第49回 立退料の所得区分

 家屋の明渡しに際して受け取る立退料は、いずれの所得区分に該当するのでしょうか。
立退料の経済的性質は、必ずしも一義的な内容をもつものではなく、
[1] 建物賃借権を消滅させる対価としての性質をもつもの
[2] 移転に伴う費用の補償としての性質をもつもの
[3] 明渡しに伴って喪失する営業上の損失などを補償するものなどがあると解されております。
 したがって、個人が受け取る立退料は、その性質に応じて、[1]の立退料は、建物賃借権という資産の譲渡に該当するから、譲渡所得の収入金額となり、[2]の立退料は、移転費用の補償であり対価性を有しないから、一時所得の収入金額になります。
また、[3]の立退料は、休業又は廃業に伴う営業上の収益を補償するものであるから、立退料の支払の基となった業務の態様に応じて、事業所得、不動産所得又は雑所得の収入金額になるわけです。
 もっとも、賃貸借の当事者間で授受される立退料は、上記の[1]から[3]までの立退料に区分されているわけではなく、その契約解除に至るまでの事情に応じて渾然一体となったものが支払われるのが実情でしょうから、明確に所得区分を判断することには無理があります。 
 そこで、実務上は、借家権の消滅の対価の額に相当する部分の金額は譲渡所得に該当し、それ以外の部分は一時所得に該当するとしております。
 ただし、立退きに伴って業務の休止等により借家人の収入金額が減少したり、その休止期間中に使用人に給与等を支払ったりした場合など、収入や経費を補てんするための金額は、譲渡所得及び一時所得以外の所得に該当することになります。
 つまり、業務上の収益の補償や経費の補償となる部分以外の金額は、一時的・偶発的な所得として譲渡所得か又は一時所得となるわけです。
 ここで、立退料が譲渡所得又は一時所得に該当するかどうかは、その地域のおける借家権取引の慣行の有無等の具体的事情を考慮して、借家権の対価であるかどうかについて判断されるべきものでしょうが、一般的にいえば、賃貸借期間が非常に長く多額の権利金を授受していた場合とか、店舗等の賃借に当たり建築費の相当部分を建築協力金等の名義で提供していた場合とか、新たな建物を賃借するための権利金や新旧家賃の差額を補償するといった要素が含まれていると認められる場合などは、その立退料は借家権の消滅の対価の額に相当し、譲渡所得に該当するといえるでしょう。
 裁判例には、立退料が譲渡所得に該当するとしたものと、一時所得に該当するとしたものとがありますが、最近は、借家権の資産性を認めて譲渡所得に該当するのが多いようです。
2003.10.24