国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 譲渡費用の範囲
第53回 譲渡費用の範囲
譲渡所得の金額は、その年中の資産の譲渡に係る総収入金額から当該資産の取得費とその資産を譲渡するに要した費用を控除して計算しますが、資産の譲渡に要した費用には、その譲渡の際に支出する契約費用、売買仲介人の仲介手数料、登記費用等のほか、借家人の立退料、有利な条件により譲渡するため売買契約を解約した場合に支出する違約金、土地を譲渡するために建物等を取り壊した場合の取壊し費用や取壊しによる建物等の損失などがあります。
所得税法では、不動産所得、事業所得、山林所得及び雑所得については、総収入金額から必要経費の額を控除して所得金額を算出する仕組みを採っているのですが、譲渡所得の本質が保有資産の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)であることから、譲渡所得については、総収入金額から必要経費を控除するのではなく、資産の取得費と譲渡費用の合計額を控除して所得金額を算出することとしているのです。
このため、譲渡費用の範囲については、「譲渡を実現するために直接必要とする費用」とか「譲渡価額を増加させるためにその譲渡に際して支出した費用」などに限定されると解されているのです。
したがって、その資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、その資産の使用収益によって生ずる所得に対応する費用ですから、譲渡費用には該当しないというわけです。
裁判例では、「資産の譲渡に要した費用とは、譲渡を実現するために必要な経費に限られ、当該資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用はこれに含まれないと解すべく、例えば、譲渡のための仲介手数料、登記登録料、借家人を立ち退かせるための立退料等は、これに該当するが、譲渡資産に設定された抵当権を抹消させるために被担保債権を弁済した弁済金、山林所有権の帰属をめぐって第三者との紛争があり、その所有権確認のために要した訴訟費用、遺産分割の処理のために要した弁護士報酬等は、いずれも資産の譲渡に要した費用に当たらないものと解すべきである。」とするもの(大阪高裁昭和61年6月26日判決)
「土地所有者が支払った立退料が譲渡費用と認められるためには、法律上、土地の譲受人に対抗することができる賃借人等に対して支払ったものであることを要すると解すべきであるから、経済的価値のない使用賃貸借の権利者に対して、仮に立退料を支払ったとしても、それは譲渡費用に該当しない。」とするもの(東京地裁昭和63年4月20日判決)などがあります。
2003.12.26
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