国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 取得価額の引継ぎ

第54回 取得価額の引継ぎ

 譲渡所得は、保有資産の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)を課税の対象とするのですが、贈与や相続等によって資産が移転した場合については、譲渡所得の課税は行われません。ただし、
[1] 法人に対する贈与や遺贈又は時価の2分の1未満の対価による譲渡
[2] 個人に対する限定承認に係る相続や包括遺贈があった場合には、みなし譲渡として課税が行われます(第48回参照)。
つまり、所得税法59条1項では、個人に対する贈与や相続等については、贈与者や被相続人等に対して譲渡所得の課税を行わずに、受贈者や相続人等に取得価額及びその時期を引き継ぐことにより、将来、受贈者等がその資産を譲渡した場合に前所有者の保有期間中のキャピタル・ゲインを含めて譲渡所得の課税を行うこととしているのです。
また、個人に対して時価の2分の1未満の対価で資産を譲渡した場合で、その対価が資産の取得価額及び譲渡費用に満たないときは、その譲渡損失はないものとし、資産を譲り受けた者にその取得価額を引き継ぐこととしております(所得税法59条2項、60条1項2号)。  
 例えば、取得価額700万円、時価1,000万円の資産を400万円で譲渡すると、計算の上では300万円の譲渡損失が生じますが、所得税法ではその損失はないものとし、資産を譲り受けた者の取得価額を400万円ではなく700万円とするのです。
 このように、資産の贈与等があった場合については、前所有者の取得価額及び取得時期を引き継ぐのが所得税法の定めですが、ここでいう贈与に「負担付贈与」が含まれるかどうかという問題があります。
東京高裁昭和62年9月9日判決では、「所得税法60条1項により取得価額の引継ぎによる課税時期の繰延べが認められるには、資産の譲渡があっても、その時期に譲渡所得課税がなされない場合でなければならない。
そして、負担付贈与においては、贈与者に同法36条1項に定める収入すべき金額がある場合があり、この場合には、同法59条2項に該当する限りは譲渡損失も認められない代わりに、同法60条1項2号に該当するものとして譲渡所得課税を受けないが、それ以外は、一般原則に従いその経済的利益に対して譲渡所得課税をされることになり、課税時期の繰延べが認められないことになるから、同項1号の贈与とは、単純贈与と贈与者に経済的利益を生じない負担付贈与をいうものといわざるを得ない」と判示しております。
この高裁判決は、最高裁昭和63年7月19日判決でも維持されております。
取得価額等の引継ぎが行われる贈与とは、単純贈与と贈与者に経済的利益を生じない負担付贈与が該当するというわけです。
2004.1.9

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