国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 一時所得の範囲
第62回 一時所得の範囲
昭和55年4月に東京の銀座で1億円を拾われ、落とし主が現われないまま時効が成立して現金は拾い主のものとなりました。一時所得の典型的なものは、遺失物の拾得物などに代表されるように、思いがけなく手にした所得(予期しない所得)です。ストック・オプションの行使益の所得区分をめぐる訴訟では、「行使益は従業員等が会社に勤務したからこそ得られた所得(給与所得)であって、予期しない所得(一時所得)ではない」というのが課税庁の見解です。しかし、この見解は、果たして正しいのでしょうか。所得税法や国税庁通達で例示する一時所得には、[1]法人からの贈与による利益、[2]遺失物や埋蔵物発見者が受ける報労金などのほか、次のものがあります。
1 厚生年金基金や適格退職年金又は確定給付企業年金などの企業年金制度において、従業員が退職に基因して受け取る一時金は、みなし退職所得に該当しますが、厚生年金基金の解散や確定拠出年金からの脱退など、退職以外の理由で受け取る一時金は、一時所得になります。事業主の負担した掛金が原資となっている一時金であり、従業員の地位に基づいて受け取るものですが、給与所得とはされないのです。
2 生命保険契約等に基づく一時金のうち、保険料の負担者自身が受け取る死亡保険金、満期保険金、解約一時金は、一時所得に該当します。自ら負担した保険料の運用益に相当する部分も含まれるのです。
3 被相続人の死亡により相続人等が受け取る退職手当等については、[1]被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続財産とみなされますが、[2]被相続人の死亡後3年を経過して支給が確定したものは一時所得として取り扱われます。被相続人の「勤労に由来する」所得ですが、給与所得や退職所得には該当しないのです。
4 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等は、たとえ、その払戻しを受けた者が常連であっても、一時所得として取り扱われます。クイズ等の懸賞金も同様です。
5 人格のない社団等の解散により受ける清算分配金又は脱退により受ける持分の払戻金は、一時所得に該当します。
6 借家人が賃貸借の目的とされている家屋の立退きに際して受け取る立退料は、借家権の消滅の対価としての性質を有するもの及び収益の補償としての性質を有するものを除いて、一時所得に該当します。
7 土地の時効取得による利益は、時効の援用時にそれまでの土地の値上り益(キャピタルゲイン)が一時に実現するものですが、一時所得に該当します。
2004.5.20
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