国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 職務発明の対価と所得区分
第64回 職務発明の対価と所得区分
職務発明とは、企業の従業員等が行った発明で、使用者等の業務の範囲に属し、その発明をするに至った行為がその従業員等の現在又は過去の職務に属するものをいいます(特許法35条1項)。職務発明は、企業から研究開発の設備や資金の提供を受けて職務として行ったものですが、特許権は従業員等にあるとされますから、従業員等が企業に特許権を譲った場合には、その代償として「相当の対価」を得る権利を取得できるのです。最近、知的財産権に対する意識の高まりから、発明の対価をめぐる訴訟が多くなっているのは、ご案内のとおりです。今年に入ってからも、[1]日立製作所の光ディスク1億6,500万円(東京高裁1月29日判決)、[2]日亜化学の青色発光ダイオード200億円(東京地裁1月30日判決)、[3]味の素の人工甘味料アスパラテーム1億9,000万円(東京地裁3月24日判決)、[4]日立金属の窒素磁石1,265万円(4月27日)と、元研究員に対して職務発明の対価を認める判決が続いております。
ところで、会社の従業員が職務発明の対価を得た場合の課税は、どのようになるのでしょうか。会社に勤務した者が、「報奨」や「報償」を受けるものはすべて「勤務の対価としての報酬」すなわち給与所得に該当するのでしょうか。税務上の取扱いでは、[1]事務の合理化等に功績があった者が受けるものは、その行為が通常の職務の範囲内である場合には給与所得、その他の場合には一時所得(継続的に支払を受けるときは雑所得)、[2]職務発明をし、特許権等を使用者に承継させたことにより一時に支払を受けるものは譲渡所得、その権利の実施後の成績に応じて継続的に受けるものは雑所得、権利の使用料として受けるものは雑所得、[3]人命救助等の篤行により社会的に顕彰された者が受けるものは一時所得とされております(所得税基本通達23~35共-1)。したがって、従業員等が企業から受ける職務発明の対価は、上記通達の[2]に該当して譲渡所得になります。問題は、発明時点で既に報奨金が支払われており、その報奨金が譲渡所得に該当する場合です。今回の訴訟で確定する対価は、譲渡代金の追加払いに相当するわけですが、その対価の額は、判決の確定により収入金額に計上すべきものですから、譲渡所得ではなく一時所得と解するのが妥当と思われます(大阪地裁昭和56年11月13日判決参照)。もっとも、譲渡所得に該当すると解するとしても、その課税対象は、「自己の研究成果である特許権の譲渡による所得」に該当しますから、長期譲渡所得となり(所得税法施行令82条)、発明の対価の額から50万円を差し引いた残額の2分の1となるので、一時所得と大差はありません。
2004.6.10
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