国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 公的年金等控除額の見直し
第68回 公的年金等控除額の見直し
平成16年の税制改正では、年金税制改革のうち公的年金等控除額の見直しが実施されました。その概要は、[1]年齢65歳以上の者に対して適用されていた公的年金等控除額の上乗せ措置が廃止されるとともに、[2]年齢65歳以上の者については、公的年金等控除額の最低保障額を120万円とする特例が設けられました。この改正に伴って、[3]老年者控除も廃止されました。これらの改正は平成17年分の所得税(住民税は平成18年度)から適用されます。年齢65歳以上の者の公的年金等控除額の速算表は、次表のとおりとなります。
年 齢 公的年金等の収入金額 公的年金等控除額
65歳以上 330万円以下
330万円超410万円以下
410万円超770万円以下
770万円超 1,200,000円
収入金額×25%+375,000円
収入金額×15%+785,000円
収入金額×5%+1,555,000円
この改正は、「低所得者層に配慮しながら、高齢者を年齢だけで一律に優遇する税制の歪みを見直し、年齢にかかわらず能力に応じて公平に負担を分かち合うことが重要である。」という指摘(平成15年6月の税制調査会中期答申)を受けたものです。ご案内のように、平成18年には老人マル優も廃止されますので、年齢65歳以上の者に対する課税はますます強化されていきます。そもそも、年齢65歳以上の者を「老人」とする税制上の優遇措置は、昭和26年に老年者控除が創設されたのが最初で、その後、昭和48年には老年者年金特別控除(公的年金等控除額の前身ともいうべきもの)が設けられております。平均余命の推移をみてみますと、昭和26年(男性60.8歳、女性64.9歳)、昭和48年(男性70.7歳、女性76.2歳)となっておりますから、年齢65歳を基準に「老人」に達したとする優遇には、その当時としてはそれなりの根拠もありそうですが、現在においても(平成12年の平均余命は男性77.64歳、女性84.62歳)、年齢65歳以上の者を優遇する措置についての理由付けは困難でしょう。「公的年金等は、経済的稼得力が減退する局面にある者の生計手段とするための公的な社会保険制度から給付される年金であること等を考慮して、他の所得との間に何らかの負担調整措置が必要」という観点から公的年金等控除額が設けられているのですから(昭和62年)、公的年金等控除額のあり方については、その趣旨に則して見直しが進められるべきでしょう。
2004.9.6
関連するコラム
-
2024.11.18
橋本 浩史
株主を賃貸人とし同族会社を賃借人とする不動産の賃貸借契約に所得税法157条1項(同族会社の行為計算否認規定)の適用の可否が争われた税務判決 ~大阪地方裁判所令和6年3月13日判決TAINS Z888-2668(控訴)~
1 はじめに 所得税法157条1項は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等で…
-
2024.10.20
山田 重則
固定資産税実務Q&A
<総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 近年、新聞報道された過大徴収事案には…
-
2024.10.15
橋本 浩史
消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」(対価性)の意義が争われた税務判決 ~名古屋地方裁判所令和6年7月18日判決TAINS Z888-2624(控訴)~
1 はじめに 消費税法2条1項8号は、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を…
-
2024.09.30
山田 重則
Q 近年、新聞報道された過大徴収事案にはどのようなものがあるか?
A 近年、新聞報道された主な過大徴収事案は、下表のとおりです。ここから読み取れることは、①過大徴収は…