国税OBが緊急寄稿!!所得税法は“生身の人間”を対象 退職金課税の強化

第70回 退職金課税の強化

 政府税制調査会は、個人所得課税の抜本見直しにあったって、退職所得に対する課税を強化する方向のようです。ご案内のように、退職金は、過去の長期間にわたる勤労の対価の後払いという性格を持つとともに、退職後の生活の資に充てられるものであるという特性があることから、退職給与を受け取った者に対しては、退職収入から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1を課税対象とした上、他の所得と分離して課税することとしております。この場合の退職所得控除額は、勤続年数20年までは1年につき40万円、20年を超えると1年につき70万円で計算します。新聞報道によりますと、政府税制調査会は、[1]「終身雇用の慣行が崩れつつあるなか、勤続20年超の控除額を手厚くする必要性は薄れた」と判断し、勤続年数による控除額の格差をなくし、控除額を縮小する、[2]退職所得の2分の1課税は、「月給や年俸を低く抑え、退職金を多くする所得税逃れに使われている」ので、廃止を含めて見直すのだそうです。
 ところで、現行のように、勤続年数に応じて退職所得控除額に差を設ける税制は、「永年勤務した者が受ける退職所得と、短期間、会社役員に就任したにすぎない者が受ける退職所得とで課税方式が同一であるのは適当でなく、永年勤務した者を優遇すべきである」という要請に基づいて、昭和29年の改正から採用されたものです。そして、昭和42年の改正により10年刻みで1年当たり控除額に格差を設けたのですが、昭和49年の改正では、さらに勤続20年以内と20年超とで控除額の格差を設ける現在の制度が採用されたのです。昭和49年代は、我が国の税金がサラリーマンに重く、事業所得者・農業所得者・政治家に軽いとして、“クロヨン”“トーゴーサンピン”などが唄われた時代です。昭和49年の改正は、サラリーマン減税の推進として給与所得控除額を大幅に拡充するとともに、老後の生活安定に配慮する観点から退職所得控除が拡充されたのです。雇用形態が変化しているとしても、定年退職者に課税を強化することは、老後の生活安定に配慮するという視点を含めて十分に検討されるべき問題と考えます。一方、退職所得に対する2分の1課税制度は、昭和22年の改正により、山林所得、譲渡所得、一時所得などの一時的所得が課税の対象とされたことに伴い、累進緩和の措置として採用されたものです。ストック・オプション訴訟にみられるように2分の1課税はけしからんというのでしょうか。上場株式の譲渡益や配当に7%、土地の譲渡譲渡益には15%の税率を適用する一方、公的年金控除額や配偶者特別控除額の縮小、老年者控除の廃止など、勤労性所得に重い税金、資産性所得に軽い税金の時代となるのでしょうか。政府税制調査会における議論の行方が注目されます。
2004.11.9

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