マンション法務-規約の変更(動物飼育の禁止)-
【質問】 当マンションの管理規約や使用細則には、動物の飼育を制限する規定はありません。現在、当マンションでは、ペットに関するトラブルが発生しているようです。そこで、「犬、猫、小鳥等のペット・動物類を飼育することを禁止する」という規定を新設することを検討しているのですが、どのような手続が必要となりますか。 |
【要旨】 ① 規約の変更は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議が必要です。 ② 規約の変更が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得る必要があります。過去の裁判例では、入居当時からペットを飼育し続けていた区分所有者について、特別の影響を及ぼすとはいえないとされた事例があるものの、承諾の要否については、事案毎の検討が必要です。 |
1.集会の決議
ペット・動物類を飼育することを禁止する規定の新設は、規約の変更に当たるため、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議が必要となります(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)第31条第1項前段)。すなわち、区分所有者の数の4分の3以上と、原則として自己の専有部分の床面積の割合に応じて定められる議決権の4分の3以上との双方について、多数による集会の決議を要することとなります。
2.動物を飼育する者の承諾の要否
規約の変更が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議のみで可能となってしまうと、少数者の権利が制限されてしまう場合があることから、少数者の権利を保護する必要があります。そのため、区分所有法は、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その者の承諾を得なければならないと定めています(区分所有法第31条第1項後段)。
特別の影響を及ぼすべきときについては、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうと解されます(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決、民集52巻7号1604頁)。
過去の裁判例(東京高裁平成6年8月4日判決、高民47巻2号141頁)では、規約には動物の飼育を直接制限する条項が存在しなかったところ、総会で、犬、猫、小鳥等のペット・動物類を飼育することを禁止する規定が新設され、管理組合の理事長が入居当時から犬を飼育し続けていた区分所有者に対して犬の飼育禁止を求めて提訴した事案において、①マンションでは管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられてもやむを得ないこと、②ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではないこと、③マンションにおいて認容しうるペットの飼育の範囲をあらかじめ規約により定めることは至難の業というほかなく、動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法であることを指摘し、当該事案の事実関係を踏まえ、ペットの飼育を禁止する規約の新設はペットを飼育する者の権利に特別の影響を及ぼすものとはいえない(動物飼育をしている者の承諾は不要)としました。ただし、同裁判例は、盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には、飼い主の権利に特段の影響を及ぼすものというべき(動物飼育をしている者の承諾が必要)としています。
したがって、動物を飼育する者の承諾の要否については、一律に不要であると結論付けることはできず、個々の事例毎に判断する必要があります。
3.おわりに
平成30年度マンション総合調査によると、平成11年までに完成したマンションの過半数は犬、猫等のペットの飼育を禁止していますが、平成12年以降に完成したマンションの過半数は種類・サイズ・共用部分での通行形態等を限定してペットの飼育を認めています(国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果報告書」163頁)。対応の方法としては、ペットの飼育を一律に禁止するのではなく、飼育ルールを定めることも考えられます。
以 上
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