複合構造家屋において低層階の構造の経年減点補正率を適用することは適法か?

固定資産税の金額を大きく左右する「経年減点補正率」は、建物の構造がSRC造/RC造なのか、それともS造なのかによって異なります。そして、1つの建物が複数の構造から成る「複合構造家屋」において、低層階の構造の経年減点補正率を家屋全体に適用する方式を「低層階方式」といいます。低層階方式の適法性については、高裁で判断が分かれていましたが、最高裁は、低層階方式は適法である旨の判断を下しました(最判令和7年2月17日)。

 

1 前提知識

⑴ 固定資産税計算の全体像

① 市町村長は、「固定資産評価基準」に基づいて固定資産の「価格」を決定します(地方税法403条1項)。

② 市町村長は、決定した価格を固定資産課税台帳に登録します(地方税法411条1項)。

③ 固定資産課税台帳に登録された価格は、その固定資産の固定資産税の課税標準となります(地方税法349条1項)。

④ 必要に応じて課税標準の特例を適用して課税標準を修正します(地方税法349条の3)。

⑤ 課税標準に税率(標準税率1.4%)を乗じて固定資産税を計算します。

⑥ 必要に応じて税額の減額を行います(例えば、新築住宅等の税額の減額(地方税法附則15条の6ないし11))。

⑦ 税額確定後、市町村は、納税者に対し、納税通知書、課税明細書の交付を行い、固定資産税の徴収を行います(地方税法364条)。

 このように、固定資産税の金額は、「固定資産評価基準」に基づく「価格」(評価額)が出発点となります。

⑵ 非木造家屋の評価方法

 固定資産評価基準は、家屋の評価方法として、「再建築価格方式」を採用しています。「再建築価格方式」とは、評価時においてその家屋を再度、建築したと仮定した場合に通常必要となる建築費を求め、これに建築時からの経過年数、損耗の程度等による減価を考慮して評価を行うものです。

 固定資産評価基準は、「木造家屋」と「非木造家屋」に分けて評価方法を定めています。今回の一連の裁判で問題となったのは、いずれも「非木造家屋」です。

 非木造家屋の再建築価格方式の全体像は、以下のとおりです(固定資産評価基準第2章第1節、第3節)。

【非木造家屋の再建築価格方式の全体像】

家屋の価格(評価額)=(1) 評点数×(2) 評点一点当たりの価額

(1) 評点数=①再建築費評点数×②損耗の状況による減点補正率×③需給事情による減点補正率

(2) 評点一点当たりの価額=1円×④物価水準による補正率×⑤設計管理費等による補正率

⑶ 経年減点補正率

「損耗の状況による減点補正率」(以下、「経年減点補正率」といいます)は、新築後の年数の経過に応じて生じる価格の減価を評価において考慮するものです。固定資産評価基準は、非木造家屋の経年減点補正率を、建物の用途と構造別に定めています(固定資産評価基準(家屋)別表第13)。

固定資産評価基準(家屋)別表第13(250頁以下)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/ichiran13/pdf/kaoku.pdf

「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)/鉄筋コンクリート造(RC造)」の経年減点補正率は、「鉄骨造(S造)」の経年減点補正率よりも減少の程度が小さいため、前者が適用された場合のほうが後者が適用された場合よりも、高く評価されます。

 そのため、市町村長が、本来、S造の経年減点補正率を適用すべき家屋について、誤ってSRC造/RC造の経年減点補正率を適用した場合、両者の経年減点補正率の差の分だけ、評価額が過大となり、結果、固定資産税も過大となります。

2 複合構造家屋の経年減点補正率の考え方

 家屋全体が単一の構造であれば、その構造の経年減点補正率を適用すれば足りるため、問題は生じません。しかし、固定資産評価基準は、家屋が複数の構造から成る場合、経年減点補正率をどのように適用するのか、何ら定めを置いていません。

 複合構造家屋に対し、経年減点補正率をどのように適用するのかについては、複数の考え方があります。

 まず、複合構造家屋を異なる構造区分ごとに区分して、それぞれの構造部分に対応した経年減点補正率を適用する方式(構造別方式)があります。

 次に、複合構造家屋の「主たる構造」に対応した経年減点補正率を一棟単位で適用する方式(一棟方式)があります。一棟方式には、「主たる構造」の判定方法について、その複合構造家屋で最も大きな床面積割合を占める構造をもって「主たる構造」と判定する方式(床面積方式)、その複合構造家屋の低層階を構成する最も耐用年数の長い構造をもって「主たる構造」と判定する方式(低層階方式)などがあります。

 低層階方式の場合、家屋の大部分がS造であったとしても、低層階がSRC造又はRC造の場合には「SRC造/ RC造」の経年減点補正率が家屋全体に適用されることになります。

3 3つの事件の高裁の判断の異同

 最高裁で審理された3つの事件の高裁の判断は、おおまかにいえば、①低層階方式の妥当性と②新築時に低層階方式に基づいて選択されたSRC造/ RC造の経年減点補正率を平成30年度の価格決定の際も適用することの妥当性、という2点が争点となり、その上で、③平成30年度の価格決定の適法性という結論が導かれています。そこで、この3つの視点から整理しますと、これら3つの事件の高裁の判断の異同が理解しやすいものと思います。

 

①大阪高裁R4.12.13

(大阪地判R4.3.25)

②大阪高裁R5.1.26

(大阪地裁R4.3.24)

③広島高裁R5.3.9

(広島地判R3.7.19)

①低層階方式の妥当性

妥当でない。

妥当である。

妥当でないとはいえない。

②新築時に低層階方式に基づいて選択されたSRC造/ RC造の経年減点補正率を平成30年度の価格決定の際も適用することの妥当性

妥当でない。

妥当である。 妥当でない。
③平成30年度の価格決定の適法性 違法である。 適法である。 違法である。

4 本件で特に留意すべき事実

 ① 大阪市も広島市も内規で低層階方式を定めていたというわけではないこと

 自治体は、固定資産評価基準の定める評価方法の細部の取扱いについて、内規(実務上は、「実施要領」や「取扱要領」、「評価要綱」などと呼称されることが多い)で定めています。

  ア 大阪市

 上記裁判①、②の判決文によれば、大阪市は、平成3年度の実施要領にて、複合構造家屋の経年減点補正率について、一棟方式と構造別方式を定めた上で、一棟方式の主たる構造の判定については、「それぞれの部分の占める床面積、その他適当と認められる基準に基づいて定めるものとする」としていました。その後、大阪市は、平成18年度の実施要領にて、平成3年度の実施要領にあった「その他適当と認められる基準」に基づいて定める旨の文言を削除し、また、「主たる構造の判断は、最も大きな床面積を占める構造によるものとする」と定めました。大阪市は、平成30年度の実施要領においても、平成18年度の実施要領と同様の取扱いを定めました。

  イ 広島市

 上記裁判③の判決文によれば、広島市は、今回、問題となった家屋が新築された平成5年当時、複合構造家屋に対する経年減点補正率の適用について、家屋評価事務取扱要領等の明文の定めを設けておらず、個々の家屋の状況に応じ、登記簿の構造欄、現実の構造等を考慮して、総合的に判断していました。その後、広島市は、平成29年度取扱要領にて、複合構造家屋に対する経年減点補正率の適用は主たる構造により一棟単位で行うこと、主たる構造は原則として床面積が最も大きいものとすることなどを定めました。

  ウ 小括

 以上の通り、大阪市も広島市も実施要領等の内規で低層階方式を定めていたというわけではありません。あくまで自治体内部の運用として、低層階方式に基づいて複合構造家屋の経年減点補正率の適用を判断していたようです。

 ② 内規で床面積方式を定めた以降も新築時に低層階方式に基づいて選択されたSRC造/ RC造の経年減点補正率を適用し続けたこと

 上記の通り、大阪市は、平成18年度実施要領、広島市は平成29年度取扱要領にて、床面積方式を明記するに至りました。しかし、いずれの自治体も、それ以前に建てられた家屋の経年減点補正率は新築時に選択された経年減点補正率を適用し続けました。

 すなわち、上記裁判①、②の判決文によれば、大阪市は、平成17年1月2日以降に建てられた複合構造家屋(=平成18年度が課税の初年度となる家屋)には床面積方式を採用した一方、平成17年1月1日時点で存在していた家屋には新築時に適用した経年減点補正率をそのまま適用しました。そのため、本件家屋の経年減点補正率は、平成18年度の実施要領の改正後も、SRC造/ RC造の経年減点補正率が適用され続けることになりました。

 また、上記裁判③の判決文によれば、広島市は、平成29年1月2日以降に建てられた複合構造家屋(=平成30年度が課税の初年度となる家屋)には床面積方式を採用した一方、平成29年1月1日時点で存在していた家屋には新築時に適用した経年減点補正率をそのまま適用しました。そのため、本件家屋の経年減点補正率は、平成29年度の取扱要領の改正後も、SRC造/ RC造の経年減点補正率が適用され続けることになりました。

 このように、大阪市も広島市も内規で床面積方式に基づいて主たる構造を判定する旨を定めましたが、それ以前に建てられた家屋の経年減点補正率は従前のままとしました。納税者としては、「自治体自身が内規で床面積方式を定めた(低層階方式は放棄した)にも関わらず、なぜ、それ以降の価格決定の際も、低層階方式に基づいて選択されたSRC造/ RC造の経年減点補正率のままなのか」との素朴な疑問を持ったはずであり、これが前述の通り、裁判においても争点の1つとなっています(②新築時に低層階方式に基づいて選択されたSRC造/ RC造の経年減点補正率を平成30年度の価格決定の際も適用することの妥当性)。

5 最高裁の判断

 最高裁は、低層階方式は適法である旨判断しましたが、その理由の要旨は以下の通りです。

① 経年減点補正率は年数の経過に応じて通常生じる減価を基礎に定められたものであり、その所定経過年数は、耐用年数(家屋が使用に耐えられなくなるまでの年数)を基礎として定められたと解される。

② 複合構造家屋であっても使用に耐えられなくなったものとしてこれを取り壊すかどうかは基本的には一棟単位で判断される。

③ 家屋に作用する荷重や外力は最終的には低層階を構成する構造によって負担されるから、低層階を構成する構造のうち耐用年数が最も長いものの耐用年数が経過しない限り、なおその建物としての効用の維持を図ることができるのであり、取壊しの判断が低層階を構成する構造のうち最も耐用年数が長いものに着目してなされることも不合理とはいえない。

④ そうすると、低層階方式は、評価基準の定める経年減点補正率の趣旨に照らして合理性を欠くものとはいえず、評価基準上、許容される。

⑤ 大阪市/広島市の床面積方式を定めた内規は、それ以前に建てられた家屋にも一律に床面積方式を適用すべきことを定めたものではないし、そのような取扱いも不合理であるともいえない。

 最高裁の判決文はこちらから確認することができます。

事件①(大阪高裁R4.12.13)の最高裁の判決文

事件②(大阪高裁R5.1.26)の最高裁の判決文

事件③(広島高裁R5.3.9)の最高裁の判決文

6 私見

 最高裁の「…不合理とはいえない」、「…合理性を欠くものとはいえ」(ない)という判示からは、最高裁が「自治体の判断が不合理といえない限り、法的には許容される」という判断枠組みを採用していることが窺えます。しかし、最高裁が本件でそのような判断枠組みを採用した理由は判決文では明らかにされておらず、この点は問題といえます。仮に評価基準には複合構造家屋の経年減点補正率の適法方法が定められていない点から最高裁がこのような判断枠組みを採用したとすれば、評価基準に定められていない事項については、本件に限らず、個々の自治体の判断が尊重される可能性が高いといえます。納税者からすると、評価基準に定められていない事項に関する自治体の判断は容易には覆せないため、そのような場合について自治体の判断を争うことは躊躇せざるを得ないでしょう。

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投稿者等

山田 重則

業務分野

固定資産税還付

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