同性の事実婚状態にある者は社会保険関係の法令上、「配偶者」にあたるか。
遺族年金は、一定の要件を満たす「配偶者」に対し、支払いがなされます。そして、「配偶者」については、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする」と定められています(国民年金法5条7項)。このように、いわゆる、内縁の夫や妻も「配偶者」として遺族年金を受け取ることができる場合があります。もっとも、上記の「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」については、現在、法律婚は異性間でしか認められていないため、異性の事実婚状態にある者に限られるという解釈がこれまで一般的でした。
しかし、このような解釈を揺るがすような裁判所の判断が続いています。最判令和6年3月26日(判タ1523号72頁)は、犯罪被害者の遺族給付金の支給対象者の「犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)」には、犯罪被害者と同性の者も該当し得ると解するのが相当であると判断しました。そして、最高裁は、これと異なる原審の判断を破棄し、上告人と犯罪被害者が「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するか否かについて審理させるため、これを原審に差し戻しました。
最高裁は、犯罪被害者の遺族給付金の支給制度の目的を踏まえてこのような判断をしており、補足意見においても、「上記文言と同一又は類似の文言が用いられている法令の規定は相当数存在するが、多数意見はそれらについて判断したものではない。それらの解釈は、当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で、当該規定の趣旨に照らして行うべきものであり、規定ごとに検討する必要があるものである」と念押ししています。
そのため、上記で挙げた遺族年金が同性の事実婚状態にある者にも支給され得るかどうかは、あくまで遺族年金の目的を踏まえて判断する必要があります。もっとも、この最高裁の判断が同様の文言を定めている社会保険関係の法令解釈に影響を与えることは間違いありません。また、近年、同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は、憲法14条1項の法の下の平等などに違反する(違憲)との高等裁判所の判断が続いています(東京高判令和6年10月30日(令和5年(ネ)292号)、札幌高判令和6年3月14日(判タ1524号51頁))。以上の点を踏まえると、今後は遺族年金を含め、同性の事実婚状態にある者も、社会保険関係の法令上、「配偶者」にあたるとの判断がこれまでよりもされやすくなると思われます。
以上
引用:
※1 最判令和6年3月26日(判タ1523号72頁)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/849/092849_hanrei.pdf
※2 東京高判令和6年10月30日(令和5年(ネ)第292号)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/565/093565_hanrei.pdf
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