AIは発明者になれるのか~東京地判令和6年5月16日判決~

マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツ氏が、「生成AIは携帯電話とインターネットに匹敵するほど革命的だ」と評したように、生成AIの技術は日々進化を遂げています。そのような状況において、生成AIに関する規制も検討が進められている中で、特許法にいう「発明」とは、自然人に限られるのかという点につき判断を示した判決(※1)がでました。そこで、今回はこの判決を取り上げることとします。

事案の概要

原告は、国際出願(以下「本件出願」という。)をした上、特許庁長官に対し、国内出願をしました。 その際、原告は、国内出願の書面における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載しました。これに対し、特許庁長官は、原告に対し、発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じたものの、原告が補正をしなかったため本件出願を却下する処分(以下 「本件処分」という。)を行いました。 本件は、原告が、被告に対し、特許法にいう「発明」はAI発明を含むもので あり、AI発明に係る出願では発明者の氏名は必要的記載事項ではないから、本件処分は違法である旨主張して、本件処分の取消しを求めた事案です。

なお、ダバス(DABUS)とは、 Stephen Thaler博士 が開発したとされるAIシステム「Device for Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience」の頭文字を取ったものです。

主な判決の内容

知的財産基本法2条1項は、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、 意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるものと規定している。 …同法に規定する「発明」とは、人間の創造的活動により生み出されるものの例示として定義されていることからすると、知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、 自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。

…特許出願人の表示については、…特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の前提とするものといえる。

また、特許法66条は、特許権は設定の登録により発生する旨規定しているところ、同法29条1項は、発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当である。

判決は、上記のような判示をした上で、発明者にAIが含まれるとした場合に不都合性を指摘した上で、「AI発明に係る制度設計は、AIがもたらす社会 経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組み の在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である。」としています。

本判決により、特許法上の発明者は自然人に限られ、AIは含まれないとの判断が示されました。加えて、判決では「まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する。」と言及していることからも、今後もAIを巡る動きは大きくなることが見込まれるところです。

以上

引用:

※1092981_hanrei.pdf (courts.go.jp)

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