公益信託に限られないその他の新たな公益活動の担い手について

1 はじめに

今国会で公益信託に関する改正法案が成立し、2026年4月以降から新しい公益信託制度が始まる予定です。これまでの代表的な公益信託の在り方は、信託銀行が公益信託の担い手である受託者となり、開発途上地域における地球環境の保全に資する調査・研究、情報・知識の普及、植林などの活動に対する助成や特定の医療分野の研究に対する助成などがありました(※1)。新しい公益信託制度では、受託者を信託銀行に限らず、公益法人・NPO法人へ拡大します。しかしながら、そのような担い手の拡大のみで公益活動の担い手を確保できるかは不透明なところがあります。そこで、今回はいかに公益活動の担い手を増やすかという点に着目し、パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)というアメリカの制度をご紹介します。

2 PBCの内容

PBCは、民間において新たな公的役割を担うことのできる制度として、2022年に岸田首相が開催した「新しい資本主義実現会議」でも取り上げられており、株主利益だけでなく、従業員や顧客、環境、コミュニティヘの配慮といった公共利益を重視し、社会貢献に目的をおいたアメリカにおける企業形態をいいます。

2010年4月に、メリーランド州で初めて立法化されて以降、30州以上の多くの州における金融・教育・芸術・食品・農業など幅広い分野の企業で導入されています。アメリカにおいて、会社法は州法であるため、州ごとに規定内容は異なりますが、共通する内容は以下のとおりです(※2)。

・定款にベネフィットコーポレーションであることを明記

・取締役の義務として、株主のみならず、公共の利益の遂行を考慮すべきと規定

・ベネフィットコーポレーションの取締役は、他の利害関係者の利益を考慮することが要求される。

・一般の株式会社からの移行は、株主の3分の2以上の賛成で可能

・剰余金の分配(配当)は可能

・ベネフィットコーポレーションによる税制優遇措置はない。

3 PBCにみる新たな可能性

PBCという企業形態を選択した理由として、「会社が売却されたとしても、また、遠い将来においても会社の価値観を継続することができる(スポーツ用品のパタゴニア)」、「世間に対して我々の価値観を示すことである。特に株主に対して、我々にとって『これ』が重要であり、『これ』を優先することを示すことである(眼鏡製造業のワービーパーカー)」という声があります(※2)。このような声に鑑みると、投資家が単なる経済的利益の追求だけではなく、企業の理念に共感できるかという点に着目して投資を行っている現在の動向にPBCは合致しており、今後新たな公益活動の担い手として注目を集めることが予想されます。

以上

引用:

※1  https://www.smtb.jp/personal/entrustment/public/example

※2  shiryou1.pdf (cas.go.jp)

投稿者等

横地 未央

業務分野

公益法人・医療法人等

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