【最新判例】職種限定合意がある従業員に対する配転命令
1 はじめに
令和6年4月26日に最高裁判所(第二小法廷)が、職種を限定する旨の合意があった従業員に対して使用者は一方的に配置転換を命じることはできないとの判決を下しました。最高裁の判断は、一審(京都地裁)及びに二審(大阪高裁)の判断を覆す内容でした。
2 事案と最高裁の判断
事案の概要は次のとおりです。
訴訟を提起した男性(以下では仮に「甲野氏」と言います。)は、平成13年3月、滋賀県内の福祉施設において福祉用具の改造及び製作並びに技術の開発に従事する技術職として雇用されました。その後18年に亘り、技術職として福祉施設で働いていましたが、平成31年4月1日付で、施設側から総務課施設管理担当への配置転換を命じられました。これに対し、甲野氏が職種限定合意に反する配転命令は違法であるとして、施設側へ損害賠償請求等をした事案です。
甲野氏について職種限定合意があるとの前提で、一審及び二審は配転命令を有効と判断して甲野氏の請求を認めませんでしたが、最高裁は、以下のとおり、施設側が一方的に配転命令することはできないと判断しました。
「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。上記事実関係等によれば、上告人(筆者注:「甲野氏」以下同。)と被上告人(筆者注:「施設側」以下同。)との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。」
3 配転命令権と職種限定合意
従来、日本の企業は長期雇用を予定する従業員を、職種や勤務地を限定せずに採用し、就業規則に定める包括的な配転命令権に基づき、広範囲の配転を行うことが一般的でした。そして、企業の従業員に対する配転命令の適法性が争われる多くのケースでは、企業が配転命令権を有する前提でその権限を濫用していないか否かが争点となっています。
しかし、企業の包括的な配転命令権も、労働契約において職種限定や勤務地限定の合意がある場合には、制限されることになります。つまり、労働契約上このような限定合意がある従業員について、企業が一方的に配置転換することはできないと解されており、上記最高裁判例は職種限定合意があるケースについて、この点を明らかにしたものと言えます。なお、裁判では施設側が、甲野氏が従事する業務の需要が減少していたこと等も主張していたようですが、最高裁はそのような事情にかかわらず、配転命令権の有無を判断したものと思われます。
このようなケース、すなわち、職種限定合意があるものの、その職種を廃止せざるを得ない事業状況であり、職種限定従業員の雇用を維持するため配置転換する必要性がある場合、企業としてはどう対応すればよいのでしょうか。
難しい対応となりますが、一方的に配転命令を出すのではなく、企業が、対象となる従業員へ事情を丁寧に説明し、雇用維持のための配転について同意を得られるよう努めることが必要と思われます。こうした努力をしたものの同意を得られなかった場合には、最終的に解雇を検討することになりますが、解雇の有効性判断の際に、一連の手続の中で企業がとった努力・対応が考慮されることになると考えられています※。
※水町勇一郎著「詳解労働法第2版」東京大学出版会508頁
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