無保証融資と取締役・税理士の責任
地方銀行で、経営者に個人的な債務保証を求めない無保証融資が過半となったようです(2024年2月8日付日本経済新聞朝刊)。昨年4月の金融庁の監督指針改正で、経営者保証を求める手続きが厳格になったことがきっかけですが、ほんの少し前までは、非上場会社への銀行融資実務では経営者保証が当たり前でした。もの凄い変化です。
経営者保証があると、会社を破産させるとき、同時に社長も破産せざるを得ない場合が多く、そのせいで破産などの倒産処理が躊躇されていました。無保証が当たり前になれば、倒産を選択し易くなり、企業の新陳代謝が良くなることが期待されます。
逆に、貸手である銀行は、借手企業の経営をしっかりモニタリングすることで、貸倒れリスクをコントロールしなければなりません。そうすると、最良のモニタリングの道具である借手企業の決算書の粉飾にどう対応するかという、古典的な論点が再びクローズアップされるかもしれません。
(粉飾された)決算書を信じて融資をした結果、債権回収ができなくなった銀行は、取締役を相手に損害賠償を求めることが考えられます。粉飾決算を実行、または指示し、銀行融資を引き出した取締役が責任を負うことは勿論です。決算書の作成に直接携わっていない取締役も、取締役会の書類承認決議に参加した場合、自らの無過失を立証しない限り連帯責任を負うことになるので(会社法429条2項)、注意が必要です。
取締役以外では、顧問税理士に対する責任追及がなされる場合もあります。もっとも、確定申告書の作成等を任務とする税理士は、過少申告や脱税に繋がる利益の過少計上には注意を向けるべきですが、利益の過大計上となる粉飾の場合は事情が異なります。税理士が、銀行に対する責任を負うのは、融資を引き出す資料として用いられることを知りながら、虚偽と知りつつ、または容易に知り得たのに粉飾された確定申告書を作成してしまったような場合に限られると思われます(※1)。ともあれ、税理士としては、無用な責任を負うことのないよう、より一層の注意をすべきでしょう。
以上
引用:
※1 会社に対して融資をする者(銀行)が損害を受けるかもしれないことを予見しながらあえてこのような虚偽の内容を記載した書類を作成した税理士に、銀行に対する不法行為責任が認められるとした事例として、仙台高判昭和63年2月26日(判例時報1269号86頁)。
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