雇用保険の適用対象拡大の方針について

1.雇用保険制度改正の方針

2023年9月以降、厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会において雇用保険法の改正に関する議論が行われており、2024年1月にその方針が報告書(※1)にまとめられました。今回の改正で最も注目され実務上も影響が大きいと考えられるのが、雇用保険の適用対象が拡大される点です。

なお、他の改正事項としては、教育訓練給付の拡充、自己都合離職者の失業給付制限の見直し、育児休業給付の給付率引上げ、育児時短就業給付の創設等があります。

2.改正の背景

厚生労働省の資料等から、雇用保険制度を見直すこととなった背景について、大きく2つに整理することができます。

1つ目は、働き方が多様化する中で、それぞれの労働者が希望や状況に応じて働くことができるようにすること。2つ目は、1つ目とも関連しますが、少子化が急速に進む中、男女ともに育児期を通じて柔軟に働けるよう、社会全体で子育てを支援することが求められているということです。

こうした背景から、雇用保険制度の見直しが議論されることとなり(※2)、適用対象の拡大を始めとする改正方針がまとめられるに至りました。

3.雇用保険の適用対象拡大について

雇用保険の適用対象は、これまでも何度か拡げられており、直近では2010年の改正で非正規労働者に対する適用範囲が拡大されています(※3)。現行の加入要件は2010年改正後の内容で、①31日以上の雇用見込みがあること、②週の所定労働時間が20時間以上であること、③学生でないことです。

今回打ち出された改正方針によれば、上記「②週の所定労働時間が20時間以上」が「週の所定労働時間が10時間以上」の労働者まで拡大されることとなります。つまり、現在、雇用保険が適用されていない週所定労働時間が20時間未満の短時間労働者のうち、週所定労働時間20時間未満~10時間以上の短時間労働者は、雇用保険の適用対象となります。因みに、施行時期は企業の準備期間を勘案し、2028年度の予定です。

そして、次に重要な点は、新たに適用対象となる労働者への給付に関する方針です。この点について厚生労働省の報告書は、給付内容等について現行の被保険者(適用対象者)と別基準にはしないとしています。すなわち、新たな適用対象者も、現行の被保険者と同じように、失業等給付、育児休業給付、雇用保険二事業の対象とすることとし、給付水準や保険料率等も同じ考え方に基づいて設定される見通しです。

4.さいごに

一人一人が自らの生き方や働き方を選択・決定する際に、社会制度が各人の自由な意思決定を阻む要因になることは望ましくないと考えます。そのような観点から、雇用のセーフティーネットを拡げ、多様な働き方を社会全体で支えていこうという今回の改正方針は、方向性として一定の納得感があり、また、時代の要請にも沿ったものと言えます。

他方で、保険料率が引き上げられ企業や個人の負担が増すという懸念や、そもそも育児休業給付は子育て支援政策として位置づけられるため雇用保険ではなく別財源を検討すべきであるとの議論もあります。こうした財源の問題も含め、改正への対応に現場で大きな混乱が生じないよう制度設計が為されるか、今後の動向を注視していく必要があります。

以上

引用:

※1 厚生労働省「雇用保険部会報告」(令和6年1月10日)https://www.mhlw.go.jp/content/11607000/001187882.pdf

※2 「経済財政運営と改革の基本方針」(令和5年6月16日閣議決定)、「こども未来戦略方針」(令和5年6月13日閣議決定)等に、雇用保険制度見直しの背景や政策の方向性について記載されています。

※3 2010年の改正で、雇用見込みの期間が、「6か月以上雇用見込み」(要領に規定)から「31日以上雇用見込み」(法に規定)に短縮されました。

関連するコラム