タックス・ヘイブン対策税制の適用の可否が争われた税務訴訟で最高裁弁論
令和5年10月6日に、最高裁の第2小法廷において、みずほ銀行に対してCFC税制を適用して行われた課税処分の取消訴訟の弁論が開かれました。控訴審判決(東京高裁令和4年3月10日判決)では課税処分を取り消す旨の判断がなされていましたので、令和5年11月6日に予定されている最高裁判決において、その判断が見直されることになるのかどうかが注目されています。
この訴訟で問題となっているのは、普通株式と優先出資証券(普通株式に優先して配当受領権を有するが、原則として議決権を有しないもの)を発行していたケイマン諸島のSPC(以下「本件SPC」といいます。)が、優先出資証券の出資者に対して当期純利益の全額を配当した上で優先出資証券を償還し、その後に清算をしたことによって事業年度の終了を迎えた場合に、タックス・ヘイブン対策税制によって、本件SPCの利益が本件SPCの普通株主(みずほ銀行)の所得に合算されることになるのかということです。
租税特別措置法施行令39条の16第1項(平成29年改正前のもの)では、「特定外国子会社等の各事業年度の・・・適用対象金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合を乗じて計算した金額」を「課税対象金額」、すなわち当該内国法人の所得に合算すべき金額とすると規定されていて、この規定の文理どおりに解釈すると、事業年度の終了前に優先出資証券は償還されていて、事業年度の終了時点においてはみずほ銀行が本件SPCの持分の全てを保有していましたので、本件SPCの当期純利益はみずほ銀行の所得に合算されることになりそうなのですが、本件SPCの当期純利益は、その全額が優先出資証券の出資者に対して配当されてしまっていて、みずほ銀行が配当等で得られるものではありませんので、そのような本件SPCの当期純利益をみずほ銀行の所得に合算して課税することができるのかが争われたということになります。
この点について、控訴審判決は、「適用違法」ともいうべき斬新な判断手法によって課税処分を取り消しました。
つまり、租税特別措置法施行令39条の16第1項は文理どおりに解釈すべきであるとしつつ、本件SPCの当期純利益に対するみずほ銀行の支配力は存在しないから、その当期純利益の中にみずほ銀行の所得に合算すべき金額は存在しないと解することがタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度及び理念等に照らして相当であり、これに反する限度で租税特別措置法施行令39条の6第1項等を本件に適用することはできないと判断したのです。
このような控訴審判決に対しては、実務家の中からも、予測可能性や納税者の公平を害するのではないかという批判的な意見もありました。そのような意見にも一理あるかとは思いますが、個人的には、そのような問題というのは、政令が法の委任の趣旨を超えたものとして違法と判断される場合でも生じ得る問題であって、上記のような「適用違法」ともいうべき判断にのみ生じる問題ではないため、そのことのみをもって控訴審判決の判断を否定する理由とはならないように思います。
最高裁で弁論が開かれたということは、上記のような控訴審判決の判断が見直される可能性が高いともいえますが、最近では、控訴審判決を維持する場合でも弁論が開かれることも少なくありませんので、最高裁がどのような判断をするのかが注目されます。
以上
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