「遺贈寄付」という選択肢
亡くなった後に遺産を公益法人や自治体に寄付する「遺贈寄付」への関心が高まっています。日本財団に寄せられた21年度の問い合わせ件数は2675件で、17年度(833件)の3倍となりました。また、国際NGOの「国境なき医師団」への相談件数も22年は15年の3倍となりました。その背景としては心理的な満足感を求める人や子どもを持たない人の増加があるとみられています(※1)。
人が亡くなった場合、遺言書がない場合には、亡くなった方の遺産は、民法に基づいて相続人に相続されます。配偶者や子、兄弟といった相続人にあたる人がいない場合には、亡くなった方の遺産は、遺産の共有者(民法255条)や特別縁故者(民法958条の2)による取得といった例外的な場合を除いて、国庫に帰属し、国の財産になります(民法959条)。もっとも、これは家庭裁判所の関与の下に相続財産の清算手続が開始された場合の話であって、実際にはそのような手続が開始されないまま、亡くなった方の遺産が手つかずの状態で放置されることもよくあります。
このような事態を避けるためには、生前に遺言書を書いて、自らの遺産を誰に渡すのか、その承継先を指定しておく必要があります。たとえば、生前、親交のあった親族や友人、団体を自らの遺産の承継先として指定することができます。相続人にあたる人以外の個人や団体を自らの遺産の承継先として指定することを、法的には「遺贈」といいます。そして、近年、自らの遺産を社会貢献活動に役立ててもらうために、遺産の承継先として公益法人や自治体を指定する方が増えています。これを「遺贈寄付」といいます。
「遺贈寄付」への関心の高まりを受け、これまで遺言に関する相続サービスの主要な担い手であった大手信託銀行も「遺贈寄付」に関するサービスを拡充しています。たとえば、みずほ信託銀行は、2023年5月、「遺贈寄付」でクラウドファンディングを手がけるREADYFOR(レディーフォー)株式会社との業務提携を発表しました(※2)。
「遺贈寄付」を行うためには、生前に遺言書を作成することが必要です。その際に最大のポイントとなるのが、「遺言執行者」の指定です。遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を実現するために必要な手続を行う者をいいます。遺言執行者がいない場合には、相続人全員が共同して、亡くなった方の遺産を、遺言書に書かれた承継先に引き渡す必要が生じます。しかし、相続人の中には、「遺言書さえなければもっと遺産をもらえたのに」などと遺言書の内容に不満を感じ、遺産の引き渡しに協力しない人もいるかもしれません。このような事態を避けるためには、相続人に代わって遺言書に書かれた内容を実現するために必要な手続を行う者を、「遺言執行者」として指定しておく必要があります。もっとも、遺言書で指定を受けた「遺言執行者」が実際に遺言執行者に就任するかどうかは不確実です。そのため、遺言書で「遺言執行者」を指定する場合には、生前に「遺言執行者」となるべき者と密にコミュニケーションをとり、自身が亡くなった後、必要な手続を進めてくれるかよく確認をしておく必要があります。大手信託銀行や士業は、有償で「遺言執行者」を引き受けるサービスを提供していますので、身の回りに「遺言執行者」を任せられる人がいない場合には、相談してみるとよいでしょう。
以上
引用:
※1 2023年6月7日 日本経済新聞「財産を公益法人やNPOなどに」
※2 2023年5月16日 日本経済新聞「みずほ信託 遺贈寄付を円滑に レディーフォーと提携」
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