内部統制と成長戦略 内部統制と敵対的買収
内部統制と敵対的買収
内部統制は、監査的発想から使われる言葉である。しかも、会社法と金融商品取引法という法律による規律をともなうようになった。そのため、内部統制の本質が見えにくくなっている。
内部統制の本質は、本来は経営者の役割そのものを指し示す経営管理と同義である。すなわち、経営者は会社の社会的な存在価値を実現して、会社を存続させ、恒久的な成長を図る役割を担っている。
経営者がその役割を果たすために、多くの従業員を抱えている会社にあっては、効率的なシステムを設け、人員を配置し、会社の全体を効率的に経営管理することなる。この経営管理が内部統制の本質である。
この経営管理は、本来、法律の規律の必要のない経営者が経営能力を創造的に発揮する自由な領域である。経営者の経営管理は、経営者の手腕を発揮する領域である。この点は、内部統制という言葉が使われても、内部統制の法律による規律があっても、経営者が経営管理にその手腕を発揮すべき本質は変わらない。
内部統制が法律によって規律されるにいたったのは、米国では、エンロン事件・ワールドコム事件等、日本では、西武鉄道事件・カネボウ事件等に典型的に見られる経営者による経営管理の品質の低さが資本市場ないし社会全体に与える被害が大きく、投資家や社会に迷惑をかけない最低の経営品質を保持させるためである。
鳥瞰図的な言い方をすれば、経営者の経営手腕を発揮すべき経営管理の自由の領域のうち、経営品質の低い領域は法律で制約されるが、経営品質の中ぐらいの領域、高い領域は、経営者がその手腕を発揮することの自由はいささかも制約されていない。むしろ、法律による規律は、日本経済に大きな影響を与える中堅・大企業に対して、高い経営品質の経営管理を期待し、日本企業の国際的競争力が強くなることを要望していると考えられる。
換言すれば、法律による規律は、日本企業の経営管理の面での全体的な底上げを図り、日本企業の恒久的成長の基礎を築こうとする意図に基づくものである。
米国では、厳しすぎる内部統制の法律規律を行ったため、経営管理の底上げを図る政策は、副作用の方が大きかった。そのため、その政策的面では、失敗した。しかし、失敗をしても、その反省に立つ改革が行われれば、米国会社の経営管理の品質は高くなり、全体的に企業競争力は高くなることは必定である
日本では、内部統制は経営管理のことであり、そのことが各会社の成長の礎であるという発想に欠けている。経営者の目は、法律が規律する経営管理の最低水準点に集まるから、経営管理の高い水準に目が行かず、日本企業の経営管理水準に引っ張られる。
これでは、日本企業の現状の経営陣には、将来に希望は持てないため、外資等経営水準の高い企業による統合提案に対して、対抗できない事態が生じる。敵対的買収問題も、帰するところ経営品質の問題であり、その防衛策の本質も、帰するところ内部統制による経営品質の高度化の問題である。現在の内部統制における法律論議に現(うつつ)を抜かしていると、外資による敵対的買収を奨励し、援助することになる。
(以上、生産性新聞2007(平成19)年5月15日号より転載)
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