内部統制と成長戦略 内部統制は百罰百戒的制度

内部統制は百罰百戒的制度

1 現状は一罰百戒
 従来、行政庁は、不祥事を起こした会社等に対し、摘発し、あるいは行政処分をしてきた。このように摘発され、あるいは行政処分を受けたのは、法令違反を起こした事例の一部にしか過ぎない。
 そうではあっても、行政庁が行う摘発や行政処分は、他の会社等に違法行為を阻止する予防的機能を果たすだろうと思われてきた。その意味で、これらの摘発、行政処分は、一罰百戒と呼ばれてきた。
 たとえば、談合の摘発が典型例である。ところが、談合の摘発をしても、談合はなくならない。ついには、公正取引委員会は、国などが発注する水門工事の入札をめぐる談合に関し、国交省の官製談合を認定するまでになった。
 最近の日本では、社会全体に倫理感の喪失が蔓延し、会社に関する不祥事は枚挙に暇がないほどになっている。そのため、行政庁が中心として行う一罰百戒的手法では不祥事防止は困難なことが明らかとなった。

2 百罰百戒の方向性
 そこで、従来の一罰百戒的手法に加えて、百罰百戒的手法を取り入れる方向性が出てきた。これは、「民民」といわれるものである。すなわち、行政庁による責任追及に加えて、民間の会社関係の不祥事の責任追及は民間の会社関係者によって行うという発想である。
 この発想の背景で注目しなければならないのは、会社における不祥事を本気で防止しようとしていることである。換言すれば、不祥事に対する責任追及に実効性を持たせようとしているのである。会社・役員等にしてみれば、不祥事が起きれば、責任追及を受ける可能性が従来の常識では考えられないほど、高いものとなることに驚くことになるだろう。
 最近の例で、日興コーディアルグループの会計不正問題がある。従来であれば、会計不正問題として発覚しなかった可能性があるし、厳しい責任追及も想定されなかった可能性がある。ところが、会計不正問題は発覚し、その結果、会社は金融庁から5億円の課徴金を課せられた。
 この点は、一罰百戒的である。しかし、会社は、社長等に対し損害賠償の請求をすることを決めた。この会社による損害賠償請求こそ、民民的な百罰百戒的手法である。
 このような民民的な手法である不祥事に対する責任追及のうち、重要なものを取り上げると、以下のとおりである。
① 会社による責任追及
② 株主による株主代表訴訟
③ 株主による第三者責任追及訴訟
④ 株主による証券訴訟
 このうち、会社の不祥事がある場合に、現実に利用されているのは、②の株主代表訴訟である。そうはいっても、会社の不祥事の全体からすると、株主代表訴訟が提訴される例は、それほど高い確率ではない。株主代表訴訟は一罰百戒的な手法なのである。
 しかし、今後は、会社による責任追及と証券訴訟が百罰百戒的手法として利用される可能性を秘めている。会社による責任追及は、内部統制体制の整備が整うにしたがって、次第に実例が増えてくるだろう。そのように、私は予測している。それは、内部統制体制に関する法律の規律は実効性を標榜しているからである。

(以上、生産性新聞2007(平成19)年3月5日号より転載)

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