(1)金銭の信託

 今でも民事信託組成において、信託専用口座を銀行に開設することが難しいと聞く。信託は財産管理であり、財産管理には必ずお金の出し入れが付随するから、信託専用口座を受託者の居住地の近隣銀行支店に開設できないのは、受託者の受託事務に支障をきたすことは間違いない。どの金融機関がこれに応えてくれるかは、民事信託を多く手掛ける弁護士に尋ねればわかるだろう。金融機関によっては、支店によって対応がまちまちであるケースもあるので、注意が必要だ。

 他方で、銀行にとっては信託専用口座開設の直接のメリットは少ない。むしろ管理の手間とリスクが増えるだけとの見方もあろう。すなわち、銀行は、受託者「個人」の口座と信託専用口座を分別して管理(口座番号や顧客コードを分ける)しなければならないとか、受託者に相続が発生した場合、間違いのない対応をしなければならないとかの手間とリスクを負うことになる。

 信託専用口座を開設する金融機関側のメリットは、民事信託を利用しようという顧客は富裕層が多いから、その富裕層との取引のきっかけになるということがあるだろう。既存顧客であれば、その顧客を他行に取られないために必要だということもあるだろう。地銀や地域金融機関にとってみれば、世代交代をきっかけに、東京の大手銀行や信託銀行に顧客預金が流出するのを防止するという機能も期待されるだろう。いずれにせよ、信託専用口座を提供するだけでは儲からないことは確かだ。ただ、信託専用口座は信託事務の出入口であるから、信託財産やその管理状況を把握するには、信託専用口座が自行にあるのは有益だろう。