受益者
もとの財産の所有者である委託者と受益者が同一である、民事信託の典型的な場合(自益信託という)、受託者に所有権を移転するからといって、委託者がもとの財産の経済的利益を失うわけではない。信託の受益者として受益権を保有することにより、もとの財産を保有していることと経済的実質に変化は生じない。経済的実質に変化がないため課税の問題も起こらない。ここに信託の妙味がある。また同時にわかりにくいところでもある。
典型的な民事信託の構図は、高齢資産家が委託者になり、その親族(例えば息子)が受託者になる、最初の受益者は委託者と同一人物である高齢資産家がなる、というものである。これにより、高齢資産家の資産が悪徳業者に騙し取られるのを防止できる。なぜ騙し取られるのを防止できるのかといったら、信託されることにより、財産の所有権はすでに高齢資産家にはなく、その息子に移っているからである。所有権のない人を騙しても財産は奪えない。不動産であれば登記の移転もできない。委託者にとって所有権を失うという抵抗感のある手続きを踏むから、財産の保全が万全になるといえる。
当初の受益者である高齢者が亡くなったら、信託は終了するとの契約はもちろん有効だし、数は多い。ただ、次の受益者を指定して、信託を継続することもできる。さらに3番目の受益者を指定しておくこともできる。このような受益者を連続させる信託によって、遺言ではできない、長期に渡って財産の行く末を決めておくことができる。