銀行のピンチ1~10(再録)
第1回 2018/03/30
今週のエコノミストの特集は「AIと銀行」である。この記事を読んで元気をもらった銀行員は、メガであろうと地銀であろうと地域金融機関であろうといないだろう。全体の印象は金融仲介業務はなくならないが、銀行はフィンテック企業等に取って代わられる領域が拡大する、銀行の中においては銀行員の仕事はAIに取って代わられる領域が拡大する、というものか。銀行で余った人材は銀行外で活用される、銀行内ではコンサルティングなど高度な仕事に就く、ということか。ただ、現在では顧客から金を取れるコンサルティング技術を持った銀行人材は、信託銀行の一部以外にはほとんどいないのではないか。
第2回 2018/04/03
公的年金運用の親玉GPIFが低格付債に投資を始めるとの日経記事があった。ここで低格付債とは格付BB以下のいわゆるジャンクボンドである。ジャンク(くず)であるから、投資「適格」とはされず、従来年金基金のような慎重な投資家は投資対象外としてきた。記事中ドレクセルバーナム証券会社の、マイケルミルケンという懐かしい名前に出会った。ジャンクボンドの帝王と称された、ジャンクボンド市場を創った男である。ちなみにマイケルミルケンはその後インサイダーなどで刑事訴追され、ドレクセル社は倒産している。さて、低格付債発行企業のような信用力の低い企業に対して、どのように融資をできるかが銀行にとって問題である。
第3回 2018/04/13
本日の日経朝刊にあるように、FRBは着実な利上げフェーズに入っている。原油価格も3年ぶりの高値圏である。日本においても、人手不足と政権の後押しを背景として賃金が上昇している。気の遠くなるような期間続いた日本のゼロ金利ないしマイナス金利も、しばらくすると溶解して金利は上昇するのではないかと思う。とすると、銀行は一息つける。そしてここで一息ついた銀行は、次の波によって淘汰されるのであろう。このところ銀行が打ち出している諸施策は、統合にせよIT化にせよ経費削減サイドのことがほとんどだ。トップラインを生み出す新たなビジネスモデルは聞こえてこない。
第4回 2018/04/16
スルガ銀行が揺れている。シェアハウスのバックファイナンスと関連して、不正行為の有無等について調べるために金融庁の緊急の立ち入り検査が入っている。スルガ銀行は静岡県の地銀であるが積極的な経営で知られている。同県には静岡銀行がいるから、静岡銀行を同じことをやっていては発展できないという危機感が絶えずあったのであろう。同行は、ワンルームマンションの個人投資家へのローンも積極的であった。静岡県外でもその名前を見かけたことが複数回ある。相続税対策としてのアパートローン、投資としてのワンルームマンションローンに続いて、シェアハウスに先鋒として触手を伸ばしたのだろう。アパートローンについてはすでに金融庁が懸念を示しているが、個人投資家のやる不動産投資全般について、終焉を迎える象徴となるような気がしないでもない。
第5回 2018/04/19
以前「銀行のピンチ2」で、投資不適格と市場では評価されるような信用力の低い企業に、いかに融資をするかが問題であると書いた。日本のほとんどの中小企業、新興企業はそのような信用力の低い企業であろう。格付けが低いどころか格付けを取れない企業がほとんどだろう。その中から潰れない企業を選別することがまずは問題だが、それと同時にそういった低信用力企業への融資について、いかに適正なスプレッドを確保できるかも問題だ。現状では、そういった低信用力企業への融資のスプレッドは、貸し倒れリスクに見合った適正なスプレッドが取れていないケースが多いのではないかと思われる。
第6回 2018/04/20
リスク収益性で見た場合、信用力の高い大企業への融資では、現在の低スプレッドでも収益性は確保できている。反対に、信用力の低い企業への融資では、妥当なスプレッドが確保できていない。したがってリスク収益性は赤字になっている取引が多いと思われる。例えばトヨタ自動車には0.5%のスプレッドでもリスク収益としては黒字だが、従業員10人の地場小企業には5%のスプレッドでもリスク収益は赤字である。銀行が低信用力企業に適切なスプレッドで貸せないのは、マクロ的にみればオーバーバンキングによる過当競争が原因であろう。もうひとつは5%のスプレッドというのは、サラ金の金利に近いものであり、銀行が融資先に適用するスプレッドではない、という感覚だろう。さらに言えば、銀行特に地域金融機関が、優越的地位により強制した取引条件に見えてしまうという感覚だろう。
第7回 2018/04/26
地銀の外債運用で損失が膨らんでいるとの日経記事があった。外債投資の中心である米国の金利が上昇しているためである。記事は地銀の運用体制の脆弱性を指摘する。数人の運用担当者がろくな情報インフラもなくやっていれば、うまくはいかないだろう。違った観点で気の毒なのは、おそらくどの運用担当者も絶えず益出しのプレッシャーがかかっていることだろう。国内の業務純益を補填することを絶えず求められてきただろう。含み益の出ている債券は売られ、反対に含み損のある債券は継続保有される。その結果、金利上昇期にあるべきポートフォリオとは真逆のポートフォリオになり、身動きが取れなくなってさらに含み損を拡大するという構図になっていることも予想される。
第8回 2018/05/14
スルガ銀行のシェアハウスオーナー向け融資について、連日のように続報が流れている。報道を前提にすれば、これだけ大掛かりな「不正」があったとすれば、金融庁の目線からすれば銀行組織がらみの不正があったとされるだろう。とすれば、業務改善より重い業務停止命令が出される可能性が高い。また、日本的けじめとすれば経営陣の更迭も要求されるだろう。スルガ銀行は同族会社だから、不正の根源が同族の支配によるものだとされれば、経営から同族の排除も要求されるだろう。そして、銀行の対応によっては経営陣に対する株主代表訴訟まで発展するかもしれない。もっとも、個人的に気がかりなのは、「不正」に関与した個々の行員の行く末である。
第9回 2018/05/15
「不正」に関与したとされるスルガ銀行行員は、顧客を騙してシェアハウスを買わせたとして、顧客を対象とした詐欺に問われるかもしれない。顧客の財産状況を糊塗して銀行を騙し返済可能性のない融資をさせたとして、銀行を対象とした背任に問われるかもしれない。少なくとも、銀行からなんらかの処分を受けることは間違いないだろう。同行行員としては、銀行のために、少なくとも銀行から課せられた営業目標達成のためにやったのに、皮肉にも銀行によって処分されることになる。組織内で個人による不正を防止するためには、個人の意識として、顧客よりも、組織よりも、何より本人が大事であることを認識しなければならない。最後は組織は本人を救ってくれない。
第10回 2018/05/16
組織内で個人が不正をするには、「動機」、「機会」、「正当化」の3要素が必要であるとする論考がある。スルガ銀行行員の例をとれば、目標必達という「動機」があり、行内資料の改竄は本人限りで可能でありかつチェックもされないという「機会」があり、行内ではみんなやっている。支店の目標達成のため、最終的には銀行の利益のためにやっていることで、決して個人の利益のためではないという「正当化」がなされたであろう。最後の「正当化」は組織の風土と強く関係する。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という古のコントが通用する組織か否かである。
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