3.11

 3.11には、私のように当時東京在住の者にもそれぞれ物語がある。14時46分、15時に東京株式市場が閉まる直前だった。その直後から市場は急落した。有事の投げ(買い持ち高の全部売り)であった。東京にいてさえ命の危険を感じるあの瞬間に、取引を忘れなかった人たちに妙に感心した記憶がある。日を超えて、福島原発事故のニュースが頻繁に流れるようになると、欧米の証券会社の一部は東京から逃げて、シンガポールなどにサービスの拠点を(一時的に)移した。それをかれら自身から知らされたわれわれのような日系機関投資家は「あいつらとは二度と取引はしない」と憤っていた。ただ、同じ状況が海外で起こったら、例えば、フランスのパリ近郊で原発事故が起こったら、私もパリにいる社員にはパリから離れるように指示していたと思われる。他人のことは言えないと思った。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 奈良正哉

関連するコラム

奈良 正哉のコラム

一覧へ