【国際相続】プロベイト回避策(受取人指定)

1 プロベイト回避策としての受取人指定

 海外財産の相続対策というコラム(https://www.torikai.gr.jp/succession/18864)では、米国、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポールといった英米法圏の国々では、相続財産を承継するためにはプロベイトと呼ばれる手続を経る必要があること、プロベイトが完了するまでに1年から3年近く要する場合もあること、それゆえ、弁護士や会計士に対する報酬も多額になる傾向があること、等を紹介しました。今回は、このようなプロベイトを回避する方法として挙げた3つの方法のうち、米国における受取人指定について解説します。他の国であっても、同様の制度が利用できないか検討されるとよいでしょう。

 

2 受取人指定の対象となる財産の種類

 受取人指定とは、相続財産の受取人をあらかじめ指定することをいいます。受取人指定を行った財産は、相続発生後、当該受取人に帰属するため、プロベイトを経ることなく、相続財産を承継させることができます。

 受取人指定を行える財産は、預金、株式、債券、不動産等に限定されています。もっとも、一般的には、相続財産のうちこれらの財産が占める価格の割合は大きいため、このような財産について受取人指定を行えば、残りの財産(例えば、自宅の家財など細々とした財産)については、少額財産ルールによってプロベイトを回避することができます(詳しくは、こちらのコラム(https://www.torikai.gr.jp/succession/18864)をご参照ください。)。そのため、受取人指定は、プロベイト回避策としては、かなり有効な選択肢といえます。

 

3 受取人指定に要する手続、費用等

 預金については、当該預金を管理する銀行に対し、受取人指定を行えるか確認をします。受取人指定を行える預金口座は、一般的には、死亡時受取人指定口座(Payable-on-Death Accounts)と呼ばれます。銀行所定の用紙に受取人名を記入すればよく、しかも、無料で行えるところが大半です。

 株式や債券等についても、同様に、当該証券を管理する証券会社に対し、受取人指定を行えるか確認をします。証券口座に対し、受取人指定をすることを、一般的には、死亡時承継人指定登録(Transfer-on-Death Registration)といいます。こちらも証券会社所定の用紙に従って、手続を済ませば足ります。

 不動産については、相続が発生したときの不動産の受取人をあらかじめ権利証(Deed)上に指定し、その権利証を法務局に登記します。この権利証を、一般的には、受取人指定権利証(Transfer on Death Deed)といいます。権利証の作成やその登記には、現地の弁護士等に依頼する必要があるため、一定程度の費用が発生します。

 なお、受取人指定に要する手続、費用等は、金融機関ごとに異なりますし、不動産については受取人指定を認めない州もあります。そのため、受取人指定を行うにあたっては、金融機関への確認や現地の弁護士への確認が必要です。

 

4 受取人指定の効果、相続開始後の手続

 受取人指定を行うことで、受取人指定を行った財産についてはプロベイトを経ることなく、受取人に承継させることができる点は前述のとおりです。

 なお、受取人指定を行ったとしても、被相続人の生前中は、当該受取人は何らの権利も有しません。例えば、被相続人が預金について受取人指定を行ったとしても、預金の引き出しや口座の解約は自由に行えますし、受取人を変更することも自由です。すなわち、受取人指定を行ったとしても、被相続人は、それまでと同じように当該財産を管理・処分することができます。

 被相続人が死亡し、相続が開始した場合には、受取人は被相続人の死亡証明書と受取人自身の本人確認の書類を提出することで、預金の払戻しや証券に対する所有権を主張することができます。また、これらの書類を法務局に提出すれば、不動産の名義を変更することができます。なお、金融機関や法務局によっては、これら以外の書類を要求する場合もあるため、この点も確認が必要です。

 

5 受取人指定の欠点とそれに対する対策

 受取人指定の欠点としては、被相続人よりも受取人が先に死亡した場合には、受取人指定の効果が生じないため、当該財産を承継するためには原則通り、プロベイトを経る必要が生じてしまう点が挙げられます。受取人が死亡した後、被相続人が新たな受取人を指定し直せば、このような事態は回避できるのですが、この時点で、被相続人が認知症等で意思能力を喪失しており、新たな指定ができないことも考えられます。

 そこで、被相続人は、受取人が先に死亡した場合に備えて、代替の受益者(Alternate Beneficiary)を指定できないか検討すべきです。これにより、被相続人が死亡した時点で、すでに受取人が死亡していた場合、受取人指定を行った財産は、プロベイトを経ることなく、代替の受益者に承継されることになります。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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山田 重則

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