【国際相続】海外財産の遺言書
1 遺言の必要性
前回のコラム(https://www.torikai.gr.jp/succession/18864)では、海外財産の相続対策として、プロベイトという相続手続きと米国におけるその回避策を紹介しました。プロベイト回避策としては、①生前信託、②受取人指定、③財産共有名義化などがあり、さらに州ごとに④少額財産ルールが定められているということでした。
しかし、これは裏を返すと、遺言書(Will)だけでは、プロベイトは回避できないということを意味します。例えば、日本で公正証書遺言を作成し、財産目録の中に米国の財産を含めた場合、この遺言書はほとんどの場合、米国においても有効な遺言となりますが、プロベイトを回避することはできません。また、日本の遺言書とは別に、米国で米国のルールに従って遺言書を作成した場合であっても、同様に、プロベイトを回避することはできません。日本においては、遺言書さえ作成しておけば安心と感じる方が多く、それは日本の財産に限っていえば誤りとまではいえないのですが、プロベイト対策という観点からは不十分なものにとどまります。
このように、遺言書はプロベイト回避策としては効果を発揮しませんが、米国に財産を保有する方には作成することをお勧めします。なぜなら、遺言のない場合には、米国財産は州法に従って画一的に法定相続人に分配されてしまい、予想外の相続人が財産を承継する可能性があるためです。
2 1つの遺言書で済ませるべきか、財産所在地ごとに遺言書を作成するべきか
日本と米国に財産を保有する方が遺言書を作成する場合、①日本の遺言書の財産目録に米国財産も挙げることで、日本の遺言書だけで日本と米国の両方の財産をカバーする方法と、②日本の遺言書は日本財産だけを対象とし、これとは別に米国のルールに従って米国財産だけを対象とした遺言書を作成する方法の2つ方法が考えられます。
基本的には②の方法をお勧めします。①の方法による場合には、日本法に基づく遺言書が米国においても有効な遺言書として認められるか一応問題となりえます。また、当然ながら、米国の金融機関や登記所は、米国のルールに基づいて作成された遺言書の取扱いには慣れていますが、日本を含め、海外の法律に基づいて作成された遺言書の取扱いには慣れておらず、実務上、そこで手続が滞る可能性があります。
3 財産所在地ごとに遺言書を作成する場合の注意点
財産所在地ごとに遺言書を作成する場合、遺言書の対象となる財産をその国や地域に所在する財産に限定することが必要となります。相互に矛盾する内容の遺言書が作成された場合、前の遺言は後の遺言によって撤回されたと解される可能性があるためです。
例えば、Aは、日本の財産はXとYに2分の1ずつ、米国の財産はすべてYに相続させる意思を有していたところ、日本において、「私の財産はXとYに2分の1ずつ相続させる」という遺言書を作成し、その後、米国において、「私の財産はすべてYに相続させる」という遺言書を作成しました。この場合、YはXに対し、「日本で作成された遺言は後に米国で作成された遺言によって撤回されているから、日本の財産、米国の財産ともに全て私が相続した」と主張し、XとYとの間で紛争が生じる可能性があります。もし、Aが日本の遺言書の対象となる財産は日本財産に限ること、米国の遺言書の対象となる財産は米国財産に限ることをそれぞれの遺言書の中で明記しておければ、これらの遺言書が相互に矛盾することはありません。
このように、被相続人が複数の遺言書を作成する場合には、注意すべき点がいくつもあります。
4 米国の遺言書の有効要件
米国で作成される遺言書の有効要件は、州ごとに異なりますが、一般的には次の通りです。
・18歳以上であること
・意思能力があること
・遺言書はタイプライター又はコンピューターでタイプされていること
・遺言書にこれが遺言書であることが明示されていること
・財産を承継させる者が少なくとも1名以上書かれているか、又は、未成年の子供のための保護者が指名されていること
・日付と遺言者の署名が書かれていること
・少なくとも2名の証人が、遺言者が遺言書に署名するところを確認し、その後、遺言書に署名すること(証人は遺言書の内容自体を知る必要はない。)
鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則
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