会社法QA(平成26年改正後版) 第12回 株主総会における取締役等の説明義務

【解説】

1 会社法上、取締役、会計参与、監査役および執行役(以下「取締役等」といいます)は、株主総会において,株主から特定の事項について説明を求められた場合には,株主の質問に応じて説明をする義務(説明義務)があります(会社法314条)。

取締役等の説明義務は,株主総会における議題に関する質疑応答の機会を保障するという会議体の一般原則を規定したものです。

2 説明拒否事由

しかしながら,取締役等は,株主総会において全ての質問に対し説明をしなければならないということではありません。会社法は,取締役等が説明義務を負う範囲を明確にしています。(会社法314条,会社法施行規則71条)

取締役等が説明を拒絶できるのは,次のような場合です。

① 株主より説明を求められた事項が株主総会の目的事項に関しないものである場合

② 説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合

③ 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査が必要である場合(ただ し、株主から相当期間前に当該事項を会社に対して通知した場合,又は,調査が著しく容易である場合,は除きます)

④ 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除きます)の権利を侵害することとなる場合

⑤ 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合

⑥ 説明しないことについて正当な理由がある場合

3 説明義務の範囲,程度

 説明義務の範囲は、会社法が一般的に開示を要求している事項(事業報告、計算書類の内容、附属明細書、参考書類に記載されるべき事項)などが目安とされると考えられます。そして,平均的な株主が合理的な理解及び判断をなしうる程度の説明を行ったと評価できる程度の説明が必要であると考えられています。

 

【質問】

 本年の投資家向け説明会で株主Aから質問(説明義務の範囲内の事項)が出て、即座に答えられなかったため、「調査しておきます。」と返答しました。その後、本年の株主総会で株主Bから同じ質問が出ました。調査をして答えられるように準備はしていたのですが、総会の会場に資料を準備するのを忘れて、その場では即答できない状況になりました。「調査が必要な事項」として説明を拒否することはできないでしょうか。

【選択肢】

[1] 調査が著しく容易であるため、拒否できない。

[2] 事前に通知があった事項として拒否できない。

[3] 「調査が必要な事項」として拒否することはできる。

【正解】 [3]

【解説】

1 調査をすることが必要である場合

 株主が株主総会で説明を求めた事項について、説明をするために調査をすることが必要な場合は、取締役等は説明義務を負いません(会社法314条、会社法施行規則71条1号)。ただし、「当該株主が株主総会より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合」(会社法施行規則71条1号イ)と「当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合」(会社法施行規則71条1号ロ)には、もう一度原則に戻って説明義務を負うことになります。

2 「当該株主が株主総会より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合」

 会社法施行規則71条1号イの要件は、[1]当該株主が、[2]株主総会より相当期間前に、[3]株式会社に対して、[4]当該質問事項を通知していること、です。

 [1]の要件に関連して、株主から事前に通知のあった事項について、通知をした株主とは別の株主が質問した場合どうなるか、ですが、条文の文言上「当該株主が」となっていることから考えて、理論的には説明義務を負わないと解されます。ただし、実務的には、事前に通知があった事項については説明できる準備をしておくのが通常でしょうから、説明を拒否することは稀でしょう。なお、事前に通知があった場合でも、株主総会で実際に質問がなされなければ、説明する義務はありません。

 [2]の要件の「相当期間」については、調査に必要とされる期間であって、特に決まった期間があるわけではありません。通知された事項の内容に応じて相当期間が決まります。

 [3]の要件については、「株式会社に対して」通知することになったことから、株式会社宛又は代表取締役宛に通知する必要があるのではないかと思われます。

 [4]の要件については、口頭でも足り,電話などの方法による場合も通知があったことになりますので注意が必要です。なお、定款や定款委任による株式取扱規則などによって、質問事項の事前通知について書面によるとの制限を加えることは可能ではないかと思います。ただし、質問事項の事前通知が株主の権利行使といえるかは若干疑問が残るところですので、定款や株式取扱規則の表現には注意が必要でしょう。

3 「当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合」

 会社法施行規則71条1号ロの要件は、[1]当該事項について説明をするために必要な調査が、[2]著しく容易である場合です。

 [2]の「著しく容易である」かどうかの判断は、当該質問があった株主総会の時点において、その場の状況に基づき行われます。そこで、当該事項がたとえ事後的に著しく容易であったと判断されたとしても、株主総会のその場の状況において、調査が著しく容易でなければ、本条項に該当しないと考えられます。

4 【質問】の場合

 【質問】の場合、説明をするために調査をすることが必要な場合に該当するとして、「事前に通知があった事項」といえるか、「調査が著しく容易」といえるか、が問題となります。

 まず、「事前に通知があった事項」かどうかについては、質問をしたのは株主Bであって、事前に通知した株主Aが質問をしているわけではありませんので、該当しません。

 次に「調査が著しく容易」といえるか、ですが、総会の会場で調査して即答することができないのですから、いくら準備をしていたとしても「調査が著しく容易」とはいえません。法は無理を強いないと解すべきです。

 したがって、正解は[3]ですが、【質問】のような事情のもとでは、質問に対する説明を拒否するのは例外であって、万全の準備をしておくべきです。

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