会社法QA(平成26年改正後版)第22回 株主優待制度
【解説】
株主優待制度とは,企業が,株主に対して配当のほかに一定の所有株式数に応じてサービスや製品を提供する制度です。会社法に定められた制度ではありませんが,安定株主となり得る個人株主確保のため,日本では,株主優待制度を採用する会社が多数あります。
しかし,この株主優待制度は,以前から,会社法109条1項が定める株主平等原則,すなわち「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」との規定に反するのではないかと議論をされてきました。これは,株主優待制度は、通常、一定数以上の株式を保有する株主に対してのみサービスや製品を提供し,必ずしも持株数に比例的でないため、株式平等原則との関係が問題となるのです。
株主優待制度が株主平等原則(会社法109条1項)に反するか否かについて明確に争われた裁判例はありませんが,学説では,会社の事業の具体的状況において、株主優待が行われる趣旨・目的、優待の内容・方法・効果などを総合的に考慮して,個人株主確保や自社製品の宣伝などの経営上の合理的必要性があり、かつ、優待の程度が軽微であれば、配当規制や株主平等原則には反しないという考え方が有力です。
【質問】
当社は、株主優待制度として、鉄道の無料乗車券を配布しております。個人株主や安定株主を創出するという目的から、株主優待制度を続けたいと思いますが、このような制度は当然適法と考えてよいでしょうか。
【選択肢】
[1] 当然適法である。
[2] 当然無効である。
[3] 内容によるので当然適法とはいえない。
【正解】 [3]
【解説】
株式の数に着目し,合理的な内容の株主優待制度である場合には、会社法109条1項に違反するものではありません。
ただし、設問のように、会社の資産を株主に対して交付する類型の株主優待制度については、現物配当(453条以下)や財源規制(461条)に服する配当として扱われる余地があるので、これらの規定に照らして許されるかどうかが問題となります。
まず、現物配当に関しては、現在行われている一般的な内容の株主優待制度は、個人株主作りや自社商品・サービス等の宣伝を目的として、少額の分配をするに過ぎないので、このような内容である限り、株主に対する配当の性格は認められないと思われます。ただし、上記のような目的を超えて多額の無料乗車券を交付することは、実質的な現物配当として違法配当となるおそれがあります。
また、財源規制との関係では、無料乗車券の場合、会社は債務を負担するのみで、会社財産の流出ではありませんから、原則として財源規制との関係では問題を生じないと言えそうです。しかし、巷の金券ショップなで容易に換金できる性質の無料乗車券であれば、実質的に財産を分配するものと評価される余地はあります。
従って、鉄道の無料乗車券を配布する内容の株主優待制度であっても、内容によっては違法となる場合があります。
正解は③です。
関連するコラム
-
2024.11.15
奈良 正哉
指名委員会は本物に
法定の他に任意の設置も含めて、指名委員会は機能しているようだ。社長後継者の選定議論を行っている割合…
-
2024.11.14
奈良 正哉
KADOKAWAフリーランスいじめの正当化
フリーランスをいじめても担当者の個人的な利益はない。むしろいやな気持で対応してきたのだろう。「悪い…
-
2024.11.11
奈良 正哉
内部通報者への不利益処分に罰則
企業内の不祥事、特に経営者や経営幹部の不正行為を早期に発見するには、内部通報しかないと思っている。…
-
2024.11.01
奈良 正哉
社外取締役兼職
社外取締役の3社以上の兼職が24%に、女性に限れば34%になるそうだ(10月30日日経)。かくいう…