ウェブサイト「健康経営のためのウイルス肝炎対策」

このウェブサイト(http://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/sanhoken/hcv/index.html)は、産業医科大学の堀江正知教授がリードする研究者・産業医・社会保険労務士・弁護士(小職)のグループが作成しました。
働き盛り世代に、ウイルス性肝炎の情報を届け、治療に取り組んでいただくことが急務です。
企業の立場からも、是非、この情報をご活用いただければ幸いです。

以下、ウェブサイトの最終章「07 健康経営とは?」から引用させていただきます。

 

1.企業が「健康経営」の観点から積極的にウイルス性肝炎対策に取り組む意義

 

企業の“経営戦略”として昨今注目を集めている「健康経営」とは、企業が、従業員の健康管理を経営課題として捉え、従業員の健康保持・増進に向けた活動に積極的に取り組むことです。「健康経営」は、安全衛生にかかわるリスク管理だけでなく、労働生産性の向上、組織の活性化、優秀な人材の確保などを通じて企業価値を向上させることが期待されており、株式市場や経済取引、人材募集などにおいてその取組みを評価する仕組み(経済産業省による「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人~ホワイト500~」、厚生労働省による「安全衛生優良企業」)も始動するなど、企業規模の大小にかかわらず奨励されています。実際、その効果に気付いた企業においては、経営者のリーダーシップのもと「健康経営」が強力に推進されています。

一方、国内最大級の感染症と言われているウイルス性肝炎は、近年、新薬も登場し、その治療法は目覚ましい進歩を遂げており、早期に発見し、専門医による治療を適切に行なえば、完全に治癒するか、少なくとも肝硬変や肝がんへの進行を予防できる医療体制が整備されています。

ところが、肝炎ウイルスに感染していながら、肝炎ウイルス検査を受診していないために、感染に気付いていない人が数多く残されています。さらに、肝臓は、生命活動をしていく上で非常に大切なこと、すなわち、吸収した栄養を分解、解毒、排泄するなど多様な機能を営み、身体全体を支えている大黒柱でありながら、「眠れる臓器」といわれるように、本当に悪くなるまで症状が表れません。したがって、労働者が、正しい知識を持たないがために、ついつい仕事を優先させてしまったり、或いは、事業主に感染や治療を知られることによって雇用や地位を失うことをおそれたりして、みすみす検査や治療の機会を逸することが懸念されます。

したがって、企業が労働者の肝炎ウイルス検査やウイルス性肝炎治療を積極的に後押しすることは、「健康経営」の取組みとして、企業に強く要請されていることなのです(実際、肝炎ウイルス検査の実施は、「健康経営銘柄」の審査における調査項目の一つに挙げられています。)。

 

2.「健康経営」のパイロット的な取組みになり得るウイルス性肝炎対策

 

「健康経営」は、とりわけ、今後益々増える「高年齢労働者」(その中には、役員や上級管理職も含まれます。)の健康リスクを低減し、その活性を高めることが期待されています。この観点から、特に中高年世代に多いと想定される肝炎ウイルス感染者、ウイルス性肝炎患者について、会社による啓蒙、支援のもと、労働者が積極的に肝炎ウイルス検査、治療に取り組む意義は大きいと考えられます。

「健康経営」は、そもそも、健康な労働者だけで企業を運営するという考え方ではなく、障害や疾病を持つ労働者が就業を継続できるよう支援する「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方に立脚しています。この観点から、肝炎ウイルス感染者、ウイルス性肝炎患者が、仕事への支障や雇用・キャリアへの不安なく治療を受けられるよう、企業は、就業と治療を両立させるべく、適切な「就業上の配慮」を尽くすことが必要です。そのためには、企業自身が正しい知識を備え、ウイルス性肝炎に罹患した労働者の仕事を過度に制限したり、不当に職場から排除したりすることのないように留意するバランス感覚が求められます。

「健康経営」を効果的に推進するためには、会社による労働者の「健康情報の有効な利活用」と、労働者自身の「ヘルスリテラシー」(すなわち、自分の健康について必要な情報を取得し、理解し、行動する能力)の向上が鍵となります。そのためには、労働者の健康情報の「プライバシー保護」と労働者の健康に関する「自己決定」に十分配慮しながら会社への信頼と自発的なコミュニケーションを促し、風通しの良い職場風土を醸成することが重要です。誤解や偏見が残るウイルス性肝炎の検査やウイルス性肝炎治療と就業の両立支援にあたっては、特にこれらの点に留意することが重要です。

このように、ウイルス性肝炎対策には、企業が「健康経営」に取り組むときに気を付けなければならない様々なポイントが集約されています。したがって、企業としては、「健康経営」のパイロット的な課題としてウイルス性肝炎対策に本腰を入れて取り組むべきであり、また、そうすることによって、他の「健康経営」施策に応用することができる貴重な知見や経験を獲得することができるのです。

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