連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第95回 株主優待券と交際費

 

株主優待券と交際費

Q 弊社では、株主優待制度として、100株以上保有の株主全員に対し、全店舗で使用できる食事券2,000円分及び20%割引券5枚を送付しています。弊社の株主優待制度が交際費とされることはあるのでしょうか。

 

A 食事券については、交際費に該当する可能性がありますが、割引券については売上値引きと処理して問題ありません。

 

[解説]

1.株主優待制度と交際費

株主に対するリターンは、もちろん配当でなされるのが正統派ですが、個人株主にとっては、会社の地元の特産品や自社製品が送られてきたり、優待券や割引券をもらえるのはうれしいことです。企業側としても、個人株主に長期保有して、安定株主となってもらえることにはメリットがあるところ、近年、株主優待を行う上場企業は増加傾向にあり、株主優待実施率も3分の1を超えたとのことです。

株主側としては、株主優待により得られた経済的利益は雑所得として課税対象となります(所得税基本通達24-2)。一方、企業側としては、優待の内容によって勘定科目及び取扱いが異なってきます。

 

2.交際費に該当するもの・しないもの

優待の内容として最も多いのが、クオカード等の商品券、自社製品、その他特産品等、物品の送付です。これは、事業に関係のある者である株主に対する贈答に該当しますので、当該送付に係る費用(送料を含む)は交際費に該当します。

 また、来店時に使える割引券については、原価を超える割引率でない限り、売上値引の処理で問題ないと考えます。株主としては、店舗に行って商品を買ったり食事をしたりしなければ、利益を受けられないのがポイントで、企業側としては自社店舗に何度も足を運んでもらいたいからこそ、割引券を送付するわけです。これは販促費の効果があります。割引率としては10%~20%が一般的かと思いますが、多いところでは30%というものもあります。しかしいずれも原価を下回るほど割引することはないと思いますので、交際費には該当しないものと思います。

 

3.収益より費用が多い場合が交際費に該当

原則として、企業は、利益を得るために活動しています。したがって、売上が上がらないのに費用だけ発生してしまったような場合は、企業の正常の行動にはあたらないと考えられることとなります。食事の全額が優待券の使用による場合には、企業としては売上がゼロ、すなわち、原価の分だけ赤字が発生してしまい、損をしていることになりますので、当該原価部分については交際費とされることになります。

10,000円の売上の一部に2,000円の食事券が使用された場合は、8,000円の売上が計上されるので、原価率が50%とした場合、赤字とはなりません。しかし、2,500円の売上に対して2,000円の食事券が使用されると、売上は500円しか計上されないのに対し、1,250円の原価が発生し、赤字となってしまいます。顧客の利用単価から見て、2,000円の値引きをしても原価割れすることがないというのであれば、一律売上値引として処理しても問題ないものと考えられます。

このように、個別に交際費該当性を判断するのは非常に煩雑ですので、原価割れが発生しないように食事券の利用制限をすれば、経理処理としては個別判断を要しないこととなり、処理が楽になります。このような観点も含めて制度設計を行うのがよいのではないでしょうか。

 

鳥飼総合法律事務所 税理士 窪澤 朋子

 

※本記事の内容は、2016年10月現在の法令に基づいています。

※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。

関連するコラム