連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第90回 非上場の会社で業績連動型の役員報酬を支給することの可否
非上場の会社で業績連動型の役員報酬を支給することの可否
Q 非上場の会社ですが、業績に応じて取締役の報酬を変動させたいと考えています。もっとも、支給額が会社の損金にならないのであれば話は別です。非上場の会社でも、業績連動型の役員報酬を支給する方法はありますか?
A 非上場の会社が、法人税法上の「利益連動給与」を利用することは難しいですが、社内ルールを工夫することにより、「事前確定届出給与」を利用して、業績連動型の役員報酬を支給することは不可能ではありません。
[解説]
1.役員報酬を支払う会社法上の手続き
取締役に対して報酬(月額の報酬のほか退職慰労金なども含む。)を支給するためには、会社法上、定款の定め又は株主総会の決議が必要とされています(会社法361条1項)。多くの会社では、株主総会決議により支給総額(枠)を定め、その枠の範囲内で、取締役会(あるいはその委任を受けた代表取締役)が、個々の役員に支給する額を定めています。
2.役員報酬の法人税法上の扱い
役員報酬を受領した個人は、給与所得(あるいは退職所得)として所得税の課税を受けます。他方、役員報酬を支給した法人の側では、必ずしも、常にこれを損金に算入できるわけではありません。
すなわち、法人税法上、役員給与(報酬、賞与、退職慰労金など、役員の職務執行の対価を広く含む。)は、(一定の要件を満たすストックオプションなど特殊なものを除いて)原則として損金算入が許されないものとされています。そして、①定期同額給与(例えば、毎月同じ金額が支給される給与。)、②事前確定届出給与(事前に税務署に支給予定額を確定額で届出させ、その通りに支給した場合に限り、損金算入を認めるという制度。)、③利益連動給与、のいずれかに該当する場合に限り、損金算入が許されます(法人税法34条1項)。
利益連動給与とは、利益に関する指標を基礎として算定される給与ですが、同族会社(株主の上位3名(グループ)で株式の過半数を占めるような会社)の場合は利用が認められません。また、業務執行役員(会社法上の代表取締役や業務執行取締役、それに準じる役員など)に公平に支給するものに限られることや、算定方法の内容が有価証券報告書に記載されて開示されていることなど、厳格な要件が課されています。実際上、この意味での利益連動給与を利用できるのは、上場会社に限られています。
3.非上場会社での利益連動型給与
上記のとおり、非上場の会社(有価証券報告書提出会社でない会社)が法人税法上の「利益連動給与」を利用することは困難です。 そこで考えられるのは、前事業年度の業績を反映した賞与を、事前確定届出給与として支給する方法です。たとえば、「賞与=(前々事業年度の経常利益-前事業年度の経常利益)×係数+一定額」というような社内ルール(役員報酬規程など)を定めたとします。その上で、各事業年度の期首に、株主総会(あるいは取締役会)は、上記算式で算定された金額を決議して、税務署への事前確定届出をするわけです。 事前確定の届出は、算式等の変動の余地があるものは受け付けられませんが、上記の例では、算式を適用した後の確定金額を届け出ることになります。
以上
鳥飼総合法律事務所 弁護士 島村 謙
※ 本記事の内容は、執筆現在の法令等に基づいています。
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