連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク第88回 「特定譲渡制限付株式」(リストリクテッド・ストック)制度について
特定譲渡制限付株式」(リストリクテッド・ストック)制度について
Q 平成28年度税制改正で導入された、「特定譲渡制限付株式」(リストリクテッド・ストック)制度とは、どういう制度ですか。 |
A 一定期間の譲渡制限その他の条件が付された株式報酬について、役員又は従業員への交付日ではなく、譲渡制限の解除日に、給与所得等として課税を行う制度です。当該株式報酬を交付する法人においては、役員等に対する所得税の課税時期(譲渡制限の解除日)に、役務提供を受けたものとして、その費用の額を損金の額に算入することになります。 |
1 特定譲渡制限付株式とは
特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)とは、役員又は従業員に対して、報酬(役務提供の対価)として交付される株式で、一定期間の譲渡制限その他の条件が付されているものをいいます(法人税法54条1項、所得税法施行令84条1項)。役員又は従業員は、譲渡制限が付された期間中、報酬として付与された特定譲渡制限付株式を譲渡することができないため、「特定譲渡制限付株式」には、リテンション効果(人材を維持する効果)があるとされています。また、株主目線での経営を促す効果もあるとされています。
【特定譲渡制限付株式の要件】
・一定期間の譲渡制限が設けられていること
・勤務条件又は業績条件が達成されないこと等が法人により無償取得される事由として定められていること
・役務提供の対価として役員等に生ずる債権の給付と引換えに交付されること
・役務提供を受ける法人又はその法人の株式等の全部を直接に保有する親法人の株式であること
2 特定譲渡制限付株式をめぐる課税関係(役員等に対する給与所得等)
特定譲渡制限付株式は、一定の期間譲渡をすることができず、また、法人により無償で取得(没収)される可能性があります。そこで、特定譲渡制限付株式が交付された役員等に対しては、当該交付の日ではなくて、譲渡制限が解除された日に、その日の時価で、給与所得等として課税がされることとされました(所得税法施行令84条1項)。
3 特定譲渡制限付株式をめぐる課税関係(法人の損金算入)
(1)届出が不要な事前確定届出給与
役員に対して支給する給与は、原則として、損金の額に算入できないこととされていますが(法人税法34条1項)、役員に対する特定譲渡制限付株式による給与については、職務執行の開始日(原則、定時株主総会の日)から1か月を経過する日までに、当該株主総会等の決議により各役員別に対して報酬として確定額を支給する旨の定めがされ、その定めに基いて特定譲渡制限付株式が交付される場合に、届出が不要な事前確定届出給与として、損金の額に算入できることとされました(同項2号、法人税法施行令69条2項)。
(2)損金算入の時期及び金額
役員又は従業員に対する報酬として特定譲渡制限付株式が交付された場合には、役員又は従業員において給与等課税事由(譲渡制限の解除)が生じた日に、法人がその役員又は従業員から役務の提供を受けたものとして、その役務提供に係る費用の額を損金の額に算入することとされています(法人税法54条1項)。
ここでいう損金算入される役務提供に係る費用の額とは、特定譲渡制限付株式の交付の際に現物出資等された報酬債権の額です(法人税法54条4項、法人税法施行令111条の2第5項)。
鳥飼総合法律事務所
※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。
※ 「リスクコンシェルジュ」連載全記事にはこちらからアクセスできます。
関連するコラム
-
2024.10.20
山田 重則
固定資産税実務Q&A
<総論> Q 固定資産税の過大徴収はどの程度起きているか? Q 近年、新聞報道された過大徴収事案には…
-
2024.10.15
橋本 浩史
消費税法2条1項8号の「対価を得て行われる」(対価性)の意義が争われた税務判決 ~名古屋地方裁判所令和6年7月18日判決TAINS Z888-2624(控訴)~
1 はじめに 消費税法2条1項8号は、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を…
-
2024.09.30
山田 重則
Q 近年、新聞報道された過大徴収事案にはどのようなものがあるか?
A 近年、新聞報道された主な過大徴収事案は、下表のとおりです。ここから読み取れることは、①過大徴収は…
-
2024.09.28
山田 重則
Q 固定資産評価審査委員会の決定が誤っていた場合、自治体は賠償責任を負うか?
A 自治体による固定資産の評価額(登録価格)を法的に争うには、まずはその自治体の固定資産評価審査委員…